ホルモンレセプターとHER2の発現を欠くトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は乳癌の中で高悪性度のサブタイプであり、TNBCの増殖・進展機構の解明は治療を開発する上で重要である。これまで、プロテアソーム構成因子のひとつであるPAG1が核に強く発現するTNBC症例の予後が不良であることに着眼し、核内PAG1の機能について生化学的手法を用いた解析を行ってきた。TNBC培養細胞株と抗PAG1抗体による免疫沈降法とプロテオミクス解析(2DICAL法)により、核PAG1と結合する分子としてPARP1を同定した。PARP1はDNA複製に関与する分子であり、PAPR阻害剤はすでに臨床応用されつつある。従って、このPARP1に対し核PAG1が結合することが、DNA傷害性薬剤の応答に寄与している可能性を考えた。そこで、PAG1を発現抑制させたTNBC細胞株に対しadriamycinを反応させたが、発現抑制群でわずかに感受性が低下するのみで有意な相違はみられなかった。また、PAG1の各種欠損体を用いてPARP1結合部位を同定し、結合アミノ酸配列を用いたドミナントネガティブペプチド添加時の影響を試みたが、ペプチド作成に必要なアミノ酸長まで結合領域を絞り込むことは困難であった。 しかし、近年PARP阻害剤は転写制御を含むepigenetics制御の阻害が細胞傷害の作用点であることも示されており、エピゲノムに作用するPARP1に対しPAG1がどのように作用しているのかを追求する意義は十分あると考えられた。 一方、PAG1の発現が細胞周期依存的に転写因子E2F1により調整されることをreporter assayとChIP assayで明らかにした。また大規模遺伝子発現データベースを用いて、TNBCに多いBasal type乳癌でPAG1の発現が他のサブタイプよりも亢進していることを明らかにした。
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