研究課題
日本人の死因の中でがんは最も多く、高齢者に至っては2人に1人ががんで死亡する。またがんの中でも、特に肺がんによる死亡率が最多であることから、肺がんの発症・進展機構の解明が急務である。近年接触抑制に重要なシグナルとしてHippo経路が注目されている。Hippo経路はショウジョウバエにおいて、細胞接触などの外からの力を感知して、細胞増殖を適切に制御するシグナル経路として報告された。MOB1AやMOB1BはHippo経路のコア分子であり、MOB1Aはヒト非小細胞性肺がんの2/3の症例で発現低下をみることから、肺がんの発症・進展に重要であると予想されている。そこで申請者はMOB1A/1Bによる肺胞・細気管支の形成・維持機構やその破綻による発がんへの関与を検討するためにMOB1A/1B完全二重欠損マウスを作製・解析した。胎生期からMOB1A/1Bを欠損させると、特にⅡ型肺胞上皮の未分化性が増大し、ラメラ小体の減少、未分化cuboidal cellの増加、界面活性物質産生低下をみ、生化学的にYAP/TAZの活性化は 亢進していた。次に成体になってからMOB1A/1Bを欠損させると、細気管支上皮が気管支内腔に剥離し、肺幹細胞(BASC)も減少した。この原因としてはヘミデスモゾームを構成するCol17a1の発現低下によってヘミデスモゾーム形成が低下していたことによるものと思われた。さらにこのマウスではウレタン投与による肺腺腫や肺腺癌の形成が予想外に抑制されていたが、その原因は肺幹細胞(BASC)の減少による可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度には、同年度交付申請書に記載のある研究内容をほぼ全て遂行し、MOB1A/1Bによる肺胞・細気管支の形成・維持機構やその破綻による発がんに対する予想外の興味ある知見を見出していることから、本研究は予想外に進展したと思われる。
平成27年度には、(1)Col17a1の発現低下のメカニズム、(2)マウスの表現型のYAP/TAZ依存性、(3)ブレオマイシン投与後の肺の炎症と線維化、(4)喘息モデルにおけるHippo経路の関与などを予定しており、平成27年度中に結果をまとめて論文投稿することを目指す。
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Oncoscience
巻: 1 ページ: 75-82,
10.1016/j.lungcan
医学のあゆみ
巻: 251( ページ: 428-435