本研究は、神経冠形成に必要な遺伝子群の中からがん悪性化に寄与する遺伝子を同定・機能解析し、がん悪性化の分子機構を解明することを目的として研究を進めている。申請者らは神経冠形成遺伝子を対象としたsmall interfering RNA スクリーニングを行い、メラノーマ細胞の悪性形質を促進する候補遺伝子を選抜している。その中の一つの神経冠形成遺伝子について作用機序の解明を進め、1. 正常ヒト組織では脳と精巣でのみ高発現している、2. 正常ヒトメラノサイトと比較し、メラノーマ細胞株で高発現している、3. メラノーマ細胞においてその遺伝子 を発現抑制するとE-カドヘリン発現の増加、分化の促進、移動能・浸潤能・転移能の低下が引き起こされる、4. 神経冠形成遺伝子安定過剰発現株ではE-カドヘリン発現の低下、脱分化の促進、運動能の亢進がみられる、5. Eカドヘリンプロモーターへの結合とプロモーター活性制御機能があること、6. 神経冠形成遺伝子には抗アポトーシス作用があり、メラノーマ治療で使用されているBRAF阻害薬への感受性を弱めていること、 などの知見をこれまでに得た。 最終年度には、さらに、神経冠形成遺伝子の下流で発現亢進する遺伝子を同定し、その下流で活性化するシグナル伝達経路を明らかにした。また、このシグナル伝達経路と神経冠形成遺伝子はポジティブフィードバックループを形成していることも明らかにし、このシグナルループがメラノーマ細胞のBRAF阻害薬への耐性に寄与していることが示唆された。これらの結果は、新たに同定したメラノーマ悪性化因子の阻害がBRAF阻害薬との併用により、メラノーマ細胞のBRAF阻害薬耐性株の出現を抑制することを示唆するものであり、非常に意義深いと考えられる。
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