本研究は、肺腺癌の新規oncogeneと考えられるStratifin(SFN、14-3-3 sigma)の肺腺癌細胞における機能とその分子機序を解明することを目的としたものである。始めにSFNを肺のみで高発現させたトランスジェニックマウス(Tg-SPC-SFN)を作製した。これに発癌物質NNKを投与し20週観察し、その間10・15週の時点でCTを用いて肺を経過観察した。一部のTg-SPC-SFNでは15週からCTで肺に腫瘍が発生していることが確認できた。20週経過後、コントロールである野生型ICR肺における腫瘍発生率が11.1%であったのに対し、Tg-SPC-SFNでは47.8%と有意に高い結果となった。さらに興味深いことに、Tg-SPC-SFNはNNK非投与群でも28.6%に腫瘍が発生していた。これはSFNが肺腺癌の悪性化だけでなく発生にも関与することを示す。 次に、先行実験により肺腺癌特異的SFN結合因子として同定されたSKP1とSFNとの結合部位をClusProプログラムによるタンパク質-タンパク質ドッキングシミュレーションにより予測した。現在は、予測された結合部位に変異を導入したクローンを作製し、in vitroでシミュレーション結果の確認を行っている。また、同時にSFN内のドラッガブル部位を同定し、その部位に特異的に結合するコンパウンドのスクリーニングに入っている。SFNはSKP1を介して肺腺癌初期悪性化を促していることが示されており、同定されたコンパウンドによってSFN-SKP1結合をブロックすることで初期肺腺癌の進行を阻止できる可能性が示唆された。
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