癌細胞(組織)が特異な代謝背景を持つことは、歴史的にもワールブルク効果として知られており、臨床的にはPETなど画像診断モダリティに応用されている。本研究は、大腸癌組織において、若年発症糖尿病の原因遺伝子であるHNF4aのsplicing variantのうち、P1プロモータにより転写活性化されるHNF4a(P1)の発現が特異的に消失、減弱することを見出し、その背景を明らかにしようとしたものである。 本研究では、まず大腸癌の発生、進展とHNF4a(P1)発現との関連を検討するべく、高度異型腺腫、腺腫内癌、進行癌及び大腸癌リンパ節転移巣に対するHNF4a(P1)免疫染色を行い、合わせてp53、ki-67の免疫染色を行った。これにより、 HNF4a(P1)の発現は高度異型腺腫から腺腫内癌に至る過程で減弱することが明らかになった(p<0.05)。一方、検討数は少ないものの、腺腫内癌から進行癌、進行癌における原発巣とリンパ節転移巣ではHNF4a(P1)の消失する割合に有意な増加(有意差)は認められなかった。また、合わせて行ったp53及びki-67の免疫染色では、背景の非腫瘍性粘膜において、ki-67陽性細胞とHNF4a(P1)陽性細胞はほぼ相互排他的であるのに対し、この相互排他性は高度異型腺腫において既にaberrantとなっていることが新たに見出され、前癌病変において、既に何らかのHNF4a(P1)発現の異常があり、細胞増殖に影響している可能性が示された。
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