リボソームはあらゆる原核生物と真核生物の細胞内に存在する細胞内小器官であり、mRNAの遺伝情報を読み取りタンパク質合成の場として機能する。リボソーム生合成に異常を認める疾患群として”リボソーム病ribosomopathy”の報告が相次いでおり発癌への関与が推測されている。一方、LXRα(Liver X receptor α)は専ら脂質や胆汁酸の代謝への関与が示唆されてきた転写因子である。申請者はこれまでの研究でLXRαがリボソーム遺伝子と結合し、リボソーム生合成に重要な役割を担っていることを明らかにした。本研究は、その結果をふまえてヒト各種悪性腫瘍組織におけるリボソーム遺伝子のプロモーター領域およびLXRα結合部位における遺伝子変異あるいは遺伝子多型の有無とその機能的役割を検証し、発癌への関与について検討することを目的にした。 2007年から2011年までの間に当院呼吸器外科で切除された肺癌手術症例のうち遺伝子解析の承諾が得られた40例を解析対象サンプルとした。PCRを行ったのち、ダイレクトシーケンス法・サンガー法で遺伝子配列解析を行った。その結果、ヒト肺癌40症例中2例 (5%) でリボソーム遺伝子の転写開始点近傍領域において新規の体細胞遺伝子変異が検出された。また、40症例中1例でリボソーム遺伝子上流のプロモーター領域にSiao YHらが培養細胞のSNPとして過去に報告しているものと同一の一塩基置換が正常・癌部両方で認められた。解析症例がまだ少ないのでこの一塩基置換が肺癌において意味をなす稀な生殖細胞系列変異なのか遺伝子多型なのかは確定できていない。現在、症例数を増やして解析継続中である。また、次世代シーケンサーによる定量的遺伝子配列解析を併用した検証作業を施行中である。
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