胃癌は管腔形成が比較的保たれたもの、癌細胞が充実性あるいはびまん性に増生するものなどの病理組織像を呈するが、単一腫瘍内においても異なる組織像が存在することがまれではない。本研究では、胃癌の分化や形態形成に関わる因子の解明を目的とした。 本年度は、単一胃癌内で組織型の異なる部位から採取したRNAを用いたマイクロアレイにて発現量に差が検出された遺伝子について、マイクロアレイ結果を検証するためにqPCRを段階的に施行した。まず、発現量の差が顕著だった68遺伝子を選び出し、分化度の異なる胃癌由来の細胞株内での発現をqPCRで確認した。マイクロアレイとqPCRの結果を比較し発現傾向が一致した遺伝子について、マイクロアレイで使用した検体を含むホルマリン固定パラフィン切片由来のRNAにてqPCRを行った。7遺伝子がマイクロアレイ、細胞株、ホルマリン固定パラフィン切片のqPCRの結果がほぼ一致し、癌の分化度により発現量が異なる有力候補遺伝子とし、その中の1つであるHRASLS2 (HRAS like suppressor 2) に着目した。HRASLS2は管腔形成のある癌部より形成のない癌部で発現が低下していたため、腺管の形態の形成あるいは維持に必要な遺伝子の一つであると推測した。低分化胃癌由来培養細胞(MKN45)を用いHRASLS2の強制発現株を作成したところ、通常の培養皿上における状態では細胞接着に差異がみられた。3次元培養での細胞増殖や形態形成に関して現在解析中である。
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