ヒト大腸がん株 SW480 を用いて、大腸がん幹細胞を Side population (SP)細胞として分離した。大腸がん幹細胞の網羅的遺伝子発現解析を行うため、cDNAマイクロアレイ法にてスクリーニングした。その結果得られた候補分子の一つが、嗅神経受容体の一つであるOlfactory Receptor Family 7 Subfamily C Member 1(OR7C1)であった。OR7C1 遺伝子過剰発現実験および、siRNAを用いた遺伝子ノックダウン実験により、OR7C1の下流にはSOX2等の重要な幹細胞関連分子が存在する事を見出した。OR7C1は細胞膜に局在するタンパクであり、どのようにSOX2等の転写に関わるか不明な点も多いが、PI3K/AKTシグナルを使っている可能性が示唆された。しかしながら、シグナル伝達に関しては今後の大きな課題である。 OR7C1は、正常臓器では精巣のみに発現する。すなわち、OR7C1は新規がん精巣抗原に属する。精巣はMHCクラス1分子を発現しないため、がん精巣抗原は理想的な免疫療法の標的分子といえる。これまでHLA-A24に提示されるOR7C1抗原ペプチドを同定した。さらに多くの大腸がん患者をカバーできるように、HLA-A2に提示される抗原ペプチドの同定を試みた。検討した複数個の抗原ペプチド特異的細胞障害性T細胞(CTL)を誘導可能であった。しかしながら、これらの候補ペプチド特異的CTLは、HLA-A2陽性大腸がん細胞を認識しなかった。すなわち、今回検討したペプチドは大腸がん細胞に内在性に提示されていない可能性が示唆された。今後、内在性に提示される抗原ペプチドの同定を引き続き検討する。
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