研究実績の概要 |
本邦では、大腸癌が死因の上位を占め、大腸癌に対する最適な治療法を確立することが重要な課題となっている。現在、進行大腸癌に対する主たる治療法は手術療法および術後補助化学療法であり、粘膜内癌に対する治療法は内視鏡的切除術である。その間の深達度に位置する粘膜下層浸潤癌(SM癌)では、約10%にリンパ節転移がみられ、所属リンパ節郭清を伴う外科手術が必要となるが、90%の症例は内視鏡的切除術による根治が期待される。我々は、大腸SM癌の手術材料322例の病理標本を臨床病理学的に検討し、粘膜筋板完全破壊型の浸潤や簇出に着目した新しいリンパ節転移予測診断基準を提案した(Tateishi et al. Mod Pathol 2010)。さらに、分子病理学的な研究としてmicroRNA発現の解析に着目した。大腸SM癌の腫瘍部、非腫瘍部のパラフィン切片からmicroRNAを抽出し、定量的RT-PCR法により発現レベルを評価した。腫瘍化、浸潤、転移に関与することが報告されているmiR-31, miR-21, miR-200c, miR-143について検討し、miR-31, miR-21が腫瘍において発現が高いことを明らかにした。miR-31については、microdissection法により、非腫瘍、腺腫、癌に分けて検討し、腺腫の段階でmiR-31発現レベルが上昇し、SM浸潤する癌はさらに発現が高くなっていることが判明した。以上より、miR-31は大腸癌の腫瘍発生およびその進展に関わる因子と考えられることを報告した(Tateishi et al. Pathol Int 2015)。
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