研究課題/領域番号 |
26860244
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
河田 浩敏 自治医科大学, 医学部, 講師 (70406099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / 細胞老化 / SASP / 抗酸化反応 / 前立腺癌 / 乳癌 |
研究実績の概要 |
近年本邦において増加傾向にある前立腺癌や乳癌には、性ホルモン反応性を示すものがあり内分泌療法が一つの治療法として確立している。しかし、治療後の再発が問題となっており、癌細胞が治療に抵抗性して生存するためのメカニズムの解明が重要である。 内分泌療法が実施された前立腺癌症例や化学療法が実施された乳癌症例において、治療後に残存した癌細胞にはRho活性化とともに上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition;EMT)様変化を来していることを関連分子の免疫組織化学的検討により確認した。しかし、発生の段階で観察されるEMT関連分子はむしろ減弱傾向を示し、それとは異なる別の経路の関与が示唆された。一方、性ホルモン反応性癌細胞では、性ホルモン除去により細胞老化が誘導されており、senescence associated secretory phenotype(SASP)マーカーの発現増強が認められることをin vitroで確認した。前立腺癌の臨床材料を用いた免疫組織化学的検討においても、内分泌療法後に生存した癌細胞ではSASPマーカーや抗酸化反応関連因子の発現増強があることが確認された。さらに、去勢マウスモデルを用いた検討でも、前立腺や乳腺といった性ホルモン反応性臓器において同様に細胞老化や抗酸化反応が一部誘導されていることを確認した。性ホルモン反応性癌における性ホルモン除去下での細胞生存には、Rhoを介したEMT様反応とともに細胞老化や抗酸化反応といった種々の因子の関与が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性ホルモン反応性細胞では、性ホルモン除去によりRho活性化を介したEMT様変化とともに、細胞老化や抗酸化反応が誘導されることが、去勢マウスモデルや性ホルモン反応性の培養細胞株を用いた解析により確認できた。内分泌治療後の前立腺癌症例を用いた免疫組織化学的比較検討でも、細胞老化(SASP)に関連する因子(IL-6やIL-8など)や抗酸化反応関連因子(NRF2やNQO1など)の発現増強が認められ、実際に治療に抵抗して生存した癌細胞でもその関与が示唆されるものであった。一方、in vitroにおいて性ホルモン除去による性ホルモン反応性癌細胞の細胞老化が、TGFβやactivinを添加することにより抑制されること、逆に性ホルモン不応性癌細胞にTGFβ阻害薬を添加すると細胞老化が誘導されるとともにRho活性化レベルも低下することが確認された。Rho活性化を介したEMT様変化や性ホルモン除去による細胞老化に、TGFβシグナルの関与が示唆される。現在は、Rho活性化を介したEMT様変化とTGFβシグナル、細胞老化や抗酸化反応との関連性について検討中である。また、これまでの解析結果の一部をまとめて、海外雑誌に投稿中である。他の性ホルモン不応性癌での解析までは至っていないが、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き去勢マウスモデルにおけるin vivoの系や培養細胞を用いたin vitroの系を用いて、抗老化剤や各種の阻害剤などによりそれぞれの反応性を比較解析し、関連性について明確にする。併せて、臨床材料を用いた免疫組織化学的比較解析により、治療に抵抗した生存した癌細胞での反応について検証する。また、関連因子がある程度絞り込まれた時点で、他の癌(放射線治療後の食道癌や大腸癌など)についての解析も行う予定である。
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