研究課題/領域番号 |
26860246
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
江本 桂 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40570859)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人体病理学 / 膵がん |
研究実績の概要 |
申請者は,癌細胞におけるprimary ciliaの有無に着目して,腫瘍内にprimary ciliaが認められる症例は予後不良であることを初めて報告した(Hum Pathol 2014).本研究では,これらの結果に加え,primary ciliaの有無がシグナル伝達にどのような影響を及ぼしているかを検討し,難治性がんの代表である膵癌の悪性度診断や新規治療ターゲットの開拓へと展開する基盤となる研究を行う.本年度実施した研究成果は,以下の3項目である. 1)siRNAを用いた検討:短時間で結果の出せるsiRNAを用いて、シグナル伝達の実験を行うことを試みたが、siRNAの効果が持続する間にprimary ciliaを抑制することは難しいと判断した。そのためアゴニストあるいはアンタゴニストを用いたシグナル伝達実験は行えなかった。本研究のためにはshRNA導入が望ましいことを確認した。 2)免疫染色用の抗体検討:SHHの下流あるいは伝達に関連する分子に対する抗体を複数個検討した。コントロール切片を作製し、免疫染色およびウエスタンブロット法を用いて検討した。引き続き免疫染色に使用可能な抗体を模索する。 3)研究成果の発表:本研究の根拠となる成果を原著論文として報告し(Hum Pathol 2014),海外の学会(AACR 2014)にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は、通常癌では抑制されているとされるprimary ciliaが標本上で認められる症例は予後不良であることを報告した。生理学分野ではprimary ciliaはシグナル伝達の場として重要であるとされ、その存在の有無が腫瘍形成に影響するという実験結果が複数グループから報告されている。膵癌細胞株にもprimary ciliaが認められるものとそうでないものが存在するため、それらに対してRNAiの手法を用いて形態変化やシグナル伝達の変化を観察することで、腫瘍内でのprimary ciliaの機能を明らかにすることを目的としている。 申請者は長期間培養して形質が変化する可能性を考慮し、短期間で実験可能なsiRNAによるprimary cilia抑制検討を行った。その結果、導入直後のPCRでの検討ではsiRNAの効力は十分であったが、primary ciliaの有無を検討すると有意と言える程の数の変化が明らかでなかった。これはprimary ciliaの伸長を抑制する分子をノックダウンしたものの、分子の半減期や細胞分裂に伴うsiRNAの効果減少が影響したものと考える。そのため、本研究に最適なノックダウン方法はshRNAを用いたものであると結論付けた。siRNAの実験を追加したことにより、当初予定していた実験計画からはやや遅れてしまう結果となったが、同時にshRNAの導入に必要な試料や条件検討を行っていたため、本年度に遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は前年度に引き続き以下の検討を行う。 ①ヒト膵癌細胞株に対するRNAi導入:shRNAを使用し、IFT88とKIF3aをそれぞれノックダウンした膵癌細胞株を作製する。予備実験により明らかとなったPrimary ciliaを発現する細胞株にノックダウンあり群とコントロール群に分け、形態変化や増殖動態を観察する。また、アゴニストやアンタゴニストを用いたシグナル伝達解析をPCR法やウエスタンブロット法を用いて検討する。。 ②Primary ciliaの発現と悪性度・化学療法感受性との関連:Primary cilia抑制膵癌細胞株のin vitro動態観察、具体的には増殖能・浸潤能の検討、形態学的解析を行いPrimary ciliaが悪性度にもたらす影響を検討する。 ③移植マウスモデル内でのin vivo動態 作製した細胞株を免疫不全マウスの膵に移植し、一定の期間の後、生着率・腫瘍径・転移数とその臓器、腫瘍の組織形態学的解析、Shh等に関連した遺伝子の発現を検討する。膵癌患者では、効率に肝転移およびリンパ節転移を起こすので、特に肝臓とリンパ節への転移に差が出るかどうかを検討する。 ④膵癌ではShhシグナルが亢進するとする報告は複数があるが、遺伝子変異についての報告はほとんどみられない。しかし、他臓器の腫瘍でprimary ciliaの有無が重要視されているものはShhシグナル経路の遺伝子変異があるものが多いことに着目し、文献的調査や場合によっては解析を行う。
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