研究課題/領域番号 |
26860256
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
瀬戸 絵理 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40431382)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 感染応答 / mRNP / Stress granule / P-body / Trypanosoma cruzi |
研究実績の概要 |
サイトカインやストレス応答関連タンパクの迅速かつ的確な量的調節のため、感染初期における宿主mRNA翻訳活性は短時間でダイナミックに変化する。しかし、その制御機構については不明な点が多い。本研究はmRNAの翻訳抑制あるいは分解の場として知られているStress granule (SG)やProcessing body (P-body)といった細胞質内RNA顆粒 (mRNP)が、感染初期の自然免疫応答におけるmRNA翻訳制御に重要な役割を果たすのではないかという着想のもとに行っている。これまでに、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の感染初期にP-bodyの形成が顕著に誘導されることを見いだした。さらに、そのP-bodyがウイルスや宿主のmRNA翻訳維持の場として機能していることを示唆するデータを得た。そこで、感染応答時のmRNPの役割について、宿主側のmRNA代謝に焦点を絞って解析するため、宿主の翻訳システムを利用せずに増殖するという点でウイルスとは異なる寄生原虫Trypanosoma cruzi (T. cruzi)を用い、感染初期のmRNP動態解析を行った。その結果、T. cruzi感染はSGの形成は誘導しなかったが、P-bodyの形成を誘導した。またP-bodyの形成を阻害した細胞への感染では感染効率およびamastigoteの増殖が顕著に増加した。このようにP-bodyの形成が抗寄生虫作用を示すという報告はこれまでにない。引き続きmRNPが感染防御に果たす役割を詳細に明らかにしていくことで、感染制御の基盤技術の開発に有用な知見を得ることができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずはじめに、T. cruzi感染における宿主mRNPの動態解析を試みた。ヒト繊維肉腫HT1080細胞株にT. cruziを感染させ、感染初期におけるmRNP形成の有無をSGおよびP-bodyの各構成タンパクに対する免疫染色法を用いて調べた。その結果、SGの形成は全く誘導されない一方で、感染9時間後から24時間後にかけてP-bodyの数は顕著に増加した。P-body構成タンパクの発現量変化をウェスタンブロッティング法により調べたところ、感染前と感染後で大きな差が見られなかったことから、T. cruzi感染によるP-bodyの形成誘導はP-bodyタンパクの局在変化によるものであることがわかった。次に、P-body形成に必須でdecappingに関わるEDC4タンパクおよび翻訳抑制に関わるLsm14Aタンパクに対するsiRNAを用い、T. cruzi 感染へのP-bodyノックダウンの影響を調べた。その結果、P-bodyノックダウン細胞への感染ではコントロールと比較して、感染効率および細胞当たりのamastigote 数が顕著に増加した。このことから、感染によって形成誘導されるP-bodyは、T. cruzi の侵入およびamastigoteの増殖を抑制する働きをもつことがわかった。現在までの研究結果から、「感染応答における宿主mRNPの役割」という本研究の設問に対して、P-bodyによる感染防御というひとつの回答を得ることができたことから、本研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果から、T. cruzi感染が形成を誘導するP-bodyは宿主防御に関わるmRNAの翻訳を制御することによって抗寄生虫作用を示すと考えている。そこで、このP-bodyで翻訳制御を受けるmRNAを網羅的に同定することを目的とした実験を行う。具体的には、ポリソーム分画法を用いて感染細胞からP-bodyを精製する。得られた画分から抽出したRNAからcDNAライブラリを作製し、定量PCRを用いてRNAの抽出効率を評価する。そして次世代シーケンサーを用いて感染細胞のP-bodyにリクルートされてきたターゲット遺伝子を同定していく。同定された遺伝子の数が多く、ターゲットの絞り込みが困難な場合には、P-bodyの構成タンパクに対する免疫沈降法で目的のフラクションに含まれるmRNAを濃縮後にcDNAライブラリの作製を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では平成26年度内にT. cruzi感染によって形成促進されるP-body画分の精製を行う予定であったが、精製の条件検討に予定以上の期間を要したため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は引き続き精製条件の検討を行い、未使用額はその実験に必要な経費に充てることとしたい。平成27年度の経費の主な用途は消耗品である。その内訳は細胞培養に必要な培地、血清、デイッシュなどのプラスチック製品、ガラス器具、抗体、オリゴ作製費、試薬類である。また国内学会で研究成果を発表するために必要な旅費も使用予定である。
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