研究課題
Processing body (P-body)は真核生物における細胞質mRNP(mRNA-蛋白質複合体)顆粒のひとつで、mRNAの分解や翻訳抑制を担う。これまでに、自然免疫リガンド刺激やウイルス感染でP-body形成が顕著に誘導されることを見いだし、P-bodyが感染応答時の翻訳制御に重要な役割を示すことを示唆する知見を得た。そこで本研究では、感染応答時のmRNPの役割について、宿主側のmRNA代謝に焦点を絞って解析するため、宿主翻訳システムを利用せずに増殖するという点でウイルスとは異なる寄生原虫Trypanosoma cruzi (T. cruzi)を用い、感染初期のP-bodyの変化を調べた。その結果、T. cruzi感染もP-bodyの形成を誘導した。また、P-body形成を阻害すると、感染効率および細胞当たりの原虫数が顕著に増加した。この効果は、抗寄生虫応答に関わる宿主遺伝子がP-bodyで翻訳調節を受けることによるものであると考えた。そこで次に、感染時にP-bodyにルクルートされてくる宿主遺伝子の同定を目的とし、P-bodyの必須構成蛋白質Lsm14Aをターゲットとした免疫沈降を行った。沈降前のcell lysate (input sample)と沈降後 (IPed sample)のそれぞれに含まれるmRNAからcDNAライブラリを作製した。非感染細胞と比較して感染細胞で2倍以上IPed sampleに濃縮されてくる遺伝子を次世代シーケンシングにより同定した。しかし、定量PCRによる比較では有意差が見られず、ターゲット遺伝子の同定には至らなかった。本研究の結果から、P-body形成が抗寄生虫作用を示すことがわかった。引き続き、感染時に形成されるP-bodyで翻訳調節を受ける宿主mRNAを同定していくことで、P-bodyが感染防御に果たす役割を明らかにしていきたい。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件)
Acta Tropica
巻: 21 ページ: 57-62
10.1016/j.actatropica.2017.02.021.