研究実績の概要 |
癌特異的に発現する物質の同定は癌の治療法の開発において重要である。その探索は癌特異的なタンパク質において進んでいる。最近になり脂質の一種であるリン脂質が癌の悪性化に重要である事が示唆された(Mol Cell Biochem. 2005, J Cancer Res Ther. 2005)。しかし、数多くあるリン脂質のうちどれが癌で特異的に発現しているかを証明した報告はなかった。我々はCancer Sci. 2013でiMScopeを用いて大腸癌特異的なリン脂質を同定した。本研究ではその研究をさらに発展させるとともに胃癌において新たな癌特異的リン脂質を発見し、そのリン脂質の癌特異的高発現の原因をもたらす酵素遺伝子を同定してそれが癌の悪性化の原因となるか検証する。Cancer Sci. 2013においてiMScopeで同定した大腸癌特異的PC(16:0/16:1)の細胞内シグナルへの影響を解析した。PC(16:0/16:1)によりいずれのシグナルカスケードが活性化しているかをシグナル伝達因子のリン酸化抗体や細胞周期制御因子の抗体を用いたウェスタンブロッテイングにより判定した。その結果、Aktのリン酸化が促進されることが分かった。また、iMScope(島津製作所;現有設備)で癌特異的なリン脂質を同定できるのでこれを利用した。申請者の研究室には大量の胃癌(癌と正常部位)がそろっているのでこれらを使用した。その結果、2つの胃癌特異的に発現減少しているフォスファチジルコリン(PC)を同定した。また、原因遺伝子の候補が1つ上がった。その原因遺伝子産物の抗体を使用した免疫組織化学染色により、その産物が胃癌特異的に発現減少していることが分かった。さらに、その遺伝子を安定に過剰発現する胃癌細胞株(MKN-28, TMK-1)を樹立したところ、コントロールに比して有意に増殖能が減少した。
|