はじめに胃がんの進行過程におけるWntシグナル活性化状態と組織像の関連を、免疫染色にて解析した。Wntシグナル制御分子Dapleは、Wntシグナル古典的経路を抑制し、非古典的経路を促進している細胞質内蛋白質であり、Dapleが発現する胃がんの組織像を詳細に検討した。正常胃粘膜ではDapleの発現が低く、胃がんの進行とともにDapleの発現が増え、Wntシグナル非古典的経路のリガンドWnt5aが高発現するDiffuse type 浸潤癌とDapleとの発現が相関していた。しかし、古典的経路beta-cateninの核内移行と癌の進展やDaple発現パターンには相関がみられなかった。 また、Dapleの発現がWntシグナル非古典的経路の活性化を引き起こし、細胞浸潤能を増強していることを培養細胞で検証した。Dapleの発現が低く浸潤能が弱い胃がん細胞株では、Dapleの強制発現によって低分子量small GTPase Rac1が活性化され、細胞移動、浸潤ともに増えていた。しかし細胞株によってDaple発現レベルが異なり、Wntシグナルの活性化状態も異なるようだった。そこでWntシグナル非古典的経路のリガンドWnt5aの発現が低い細胞株を、Wnt5aタンパクで刺激し、Wntシグナル下流の活性化状態を確認した。Wnt5a刺激によってRac1が活性化され、JNK、c-junの活性化、Laminin-gamma2の発現増強が見られたが、Daple発現抑制によってこれらのシグナル活性が抑制していた。これらのことから、胃がんの浸潤や転移はWntシグナル古典的経路よりも非古典的経路によってもたらされ、Daple分子によって制御されていることがわかった。
|