研究課題
炎症は発癌との因果関係が明らかな要因である。特に腸管発癌における炎症は、疫学研究のみならず基礎研究においても発癌要因としての確固たる証拠が示されている。一方で、腸管発癌は多段階発癌を示した初めての臓器癌でありながら、腸管上皮細胞にどの遺伝子変化がある際に、あるいは遺伝子変化がいくつ蓄積した際に、炎症刺激を受けて発癌に至るのかは不明である。本研究は、申請者自らが開発した“上皮細胞”と“炎症”の研究手法を融合させてこの課題に挑んでいる。すなわち前者には、正常マウス腸管を用いた上皮細胞再構成オルガノイド培養技術を用いる(PNAS 110: 11127, 2013)。この技術は腸管上皮組織を再構成(オルガノイド)する際に、shRNAやコンディショナル遺伝子改変マウス由来の組織を用いることで、任意の時間軸で、特定の発癌関連遺伝子発現を自在に組み合わせた腸管上皮組織(オルガノイド)を作ることができる特徴を活用する。一方後者は、現所属教室で開発した異物誘発炎症に着目した。これは、異物基材を変えることで急性や慢性の炎症を自在に、かつ限局して誘導できる仕組みを活用した。平成26年度の研究は、当初の計画に従って、正常マウスより腸管上皮細胞由来のオルガノイドを作製し、これらの発癌関連遺伝子を特異的shRNAで抑制した。また、LoxP-Stop-LoxP-K-rasG12Dノックインマウスの腸管よりオルガノイドを作製し、これに前述の発癌関連遺伝子発現の抑制を組み合わせたオルガノイドを作製した。単一のもしくは複数の発癌関連遺伝子発現の異なるこれらのオルガノイドは、異物誘発の慢性炎症もしくは急性炎症下への移植を終えている。現在、どの遺伝子発現の組み合わせの際に腫瘍が出現するのかを観察中である。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究実施計画に則り、計画実験をほぼ遂行した。一部、当初予定していた大腸発癌関連遺伝子(p53)の検討を先延ばしにしており、現在当該遺伝子発現を抑制した実験を施行中である。
平成26年度の研究実施計画は概ね計画通りに進捗した。従って、平成27年度には当初の研究実施計画に則り、発癌組織から癌細胞株を樹立し、これらを用いて炎症発癌を促すシグナル解析へと移行する。
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Proteomics
巻: 14 ページ: 1031-1041
10.1002/pmic.201300414