研究課題
慢性炎症と腸管発癌との関わりは、疫学や基礎研究において確固たる証拠が示されている。しかし、腸管上皮細胞にどのような遺伝子変化がある時に、あるいはどの遺伝子変化が蓄積した際に、炎症刺激を受けて発癌に至るのかは不明である。本研究は、この関係を明らかにするために、マウスの腸管上皮細胞を再構成するオルガノイド培養技術と異物移入による炎症反応を用いた。目的の発癌関連遺伝子の発現様式が異なるオルガノイドを作製するために、腸管上皮を次のものから得た。1)正常マウス(対照群)、2)ノックインマウス(コンディショナルに変異型K-ras発現誘導)、3)shRNAによる正常マウス腸管のAPC遺伝子発現の抑制、4)変異型K-ras発現+APC発現抑制を設けた。腸管上皮はいずれも雄マウスから分離した。急性(ゼラチンスポンジ)や慢性(プラスチックプレート)炎症を誘発する異物基材とともに移入し癌化した場合に移入した細胞由来であることを示すために雌の免疫不全マウスを用いた。対照には、マトリジェルを用いた。その結果,活性化K-ras発現+APC発現抑制オルガノイドは全て腫瘍増殖した。これは、小腸上皮の場合にのみ観察され、大腸上皮では観察されなかった。また、活性化K-ras単独、APC発現抑制単独、正常腸管(対照)は、腫瘍増殖しなかった。腫瘍組織から再びオルガノイドを作製し、異物無しで新たなマウスに移植したところ、対照群から樹立した腫瘍細胞を除きすべて生着した。さらに,プラスチックプレートとともに移植して出現した腫瘍はゼラチンスポンジとともに移植した腫瘍に比べて有意に大きく、これらから得たオルガノイド径も同様であった。以上より、マウス小腸上皮の炎症発癌にはK-ras遺伝子の活性化とAPC遺伝子の抑制が必要であることを見出した。さらに、プラスチックプレート移入により誘導される炎症反応は、スポンジによるものに対し、腫瘍増殖を促進させることを見出した。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nutrients
巻: 7 ページ: 10237-10250
10.3390/nu7125531