不死化したヒト肺上皮細胞株であるHBE135E6E7細胞(HBE細胞)を肺組織由来ヒト線維芽細胞(MRC-9)とともにマトリゲル中で三次元培養し、細気管支/肺胞構造に類似した導管の房状分枝構造を作出した。このことは、肺の線維芽細胞が形態形成能を発揮していることを示している。肺胞の形態形成に関与する因子を解析し、この線維芽細胞がHGFを特に強く発現していることを明らかにした。そこで、HGFに対する中和抗体を加えたところ、非浸潤性肺癌モデル構造の形成が抑制された。HGF受容体であるMetは肺腺癌で変異や過剰発現が報告されているので、実際にヒト肺腺癌の手術サンプルでHGF-Met systemを解析した。高分化型腺癌と低分化型腺癌をそれぞれ40症例を解析したところ、Metの発現量には大きな違いが無かった。しかしながら、Metにシグナルが入ったことを示すチロシンリン酸化Met (phospho-Met)に関しては高分化型腺癌で、より多くのMet発現陽性症例が見出された。このことから、非浸潤性肺腺癌ではHGFが形態形成に関与していることが考えられる。さらに、HGFが形態形成機能を発揮しているかをin vivoで裏付けるため、肺組織中でHGFがどのような細胞に機能しているかを解析した。肺組織特異的幹細胞であるBASC(bronchioalveolar stem cells)、I型、II型肺胞上皮細胞でMetがどのような発現しているかを免疫染色にて明らかにした。その結果、BASCでのMetの発現は非常に高いことが分かった。そしてBASCは、ATII細胞からATI細胞へと分化していく過程でMetの発現が減少していることを明らかにした。このことは、より未分化な細胞がHGFを必要としており、構造的機能的に分化した過程に必須の形態形成にHGF-Metシグナルが関与していることが示している。
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