研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy, PML) は、主に免疫抑制状態にある患者においてJCウイルス (JC virus, JCV) により発症する脱髄性の致死的疾患である。本研究では実際のPML症例の脳組織検体よりDNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてJCVゲノムの変異を解析するとともに、変異株が病態にもたらす影響について分子生物学的手法にて検討を行った。 国立感染症研究所感染病理部に解析依頼があり、病理組織学的にPMLと確定診断された6症例の脳組織よりDNAを抽出し、次世代シークエンサーにてJCVゲノムの変異を解析した。続いて、解析にて明らかとなった変異株のウイルスゲノムを作成し、in vitroの実験系で分子生物学的手法により、変異株がウイルス増殖に与える影響について検討した。 検索したいずれの症例においても共通して、早期タンパク質であるT抗原に共通した変異 (V392G) を有する株がquasispeciesとして3-19%に認められた。In vitroの実験系では、野生株と比較し、変異株はウイルスタンパク質発現及びウイルス増殖能が著しく低下した。また、野生株と変異株を種々の割合で混合した場合、ウイルスタンパク質発現およびウイルス増殖能は保たれた。なお、変異株が検出されたいずれの症例のPML病変部においても、免疫組織化学ではT抗原の発現が認められた。 JCVは、ウイルス増殖に抑制的な作用を有する変異株と共存した状態で、PML病変部で増殖していることが明らかとなった。
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