研究実績の概要 |
本研究課題では、間葉系間質細胞 (Multipotent mesenchymal stromal cells:MSCs)は「免疫抑制能」と「多分化能」を有し、細胞性医薬品として臨床応用が注目されている。これまでに、研究代表者らは筋分化誘導操作を行ったMSCsを用いて、筋ジストロフィー犬への移植条件の確立に成功している(Kasahara et al., 2012)。しかし、治療効果を得るためには、炎症の鎮静化が必要だと考えた。そこで本課題ではまず、抗炎症性サイトカインIL-10を欠損することにより慢性炎症を伴うことが予想される筋ジストロフィーマウス(IL-10-/-/mdx) 系統を樹立して、炎症反応によって助長される筋組織傷害および機能障害を明確にすることを目的とした。その上で、抗炎症作用を示すMSCsを作製し、炎症制御療法の可能性を検討する。 IL-10-/-/mdxはmdxと比べて筋組織中の炎症性M1マクロファージの浸潤が増強し、炎症セイサイトカイン・ケモカインIL-1α, IL-1β, RANTES, M-CSF, MIG, IL-6の発現が増加していた。横隔膜は病理学的解析においてはmdxと同等の強い線維化を認めたが、心筋においては、より進行した線維化や拡張型心筋症の病理所見を認めた。さらに呼吸循環機能解析において、IL-10-/-/mdx は安静時期の換気量や左室内径短縮率 (%FS) が低下していた。IL-10を欠損することで、mdxマウスの筋組織障害や呼吸循環機能障害が重症化したことから、炎症がDMDの病態を重篤化する重要な要因であることが示唆された。 以上の結果より、今後IL-10の抗炎症効果を応用した新たな治療技術の開発が期待された。
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