研究実績の概要 |
本研究は、実験室レベルで点変異による薬剤耐性出現の再現が可能なアトバコン(ATQ)投与マラリア感染マウスをモデルとし、マラリア原虫の薬剤耐性獲得様式の解明を目指している。 昨年度の研究では、げっ歯類マラリア原虫(Plasmodium berghei )感染マウスへのATQ 5 μg/mlの自由飲水でシトクロムb(cob)遺伝子が点変異し薬剤耐性株が出現することが明らかとなった。今年度は点変異獲得様式の継時的な解析を行うために、P. berghei感染マウスを用い、ATQ投与前、及び投与後2~3日毎の血液を採取した。感染血液よりDNAを抽出後、PCRによってcob遺伝子領域を含むmtDNA全長(6 kb)の増幅を行い、サンガー法によりcob遺伝子全領域の塩基配列を決定したところ、P. bergheiのin vivo試験で既に報告のあるアミノ酸変異(L271V、K272R、V284F)及び新規の変異(I258M)が検出された。この新規のアミノ酸変異I258Mは熱帯熱マラリア原虫感染ヒト臨床サンプルで2014年に初めて報告されており、今回げっ歯類マラリア原虫でも同様の変異が再現されたことは大変興味深い。ATQ耐性株のうちV284Fの変異をもつ原虫集団のmtDNA全長の変異をさらに詳細に調べるために、ATQ投与前及び投与後2、4、6、8、11日目のPCR増幅産物の次世代シーケンサーによるディープシーケンスを行った。その結果、17,569~23,968の読み深度が得られ、V284Fの変異はATQ投与後6日目に急激に出現していることが明らかとなった。また、これらのmtDNAの他の領域における塩基配列の変異は存在しないことが予測された。さらに本研究ではmtDNAが1原虫あたり63~135コピー存在することが示唆されたので、今後は1原虫のmtDNAの一塩基多型解析を実施する予定である。
|