研究課題/領域番号 |
26860281
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
尾花 望 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD) (00722688)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | クロストリジウム属細菌 / バイオフィルム / IV型線毛 / 付着 / RNA切断 |
研究実績の概要 |
ウェルシュ菌は芽胞だけでなくバイオフィルムと呼ばれる微生物集合体を形成することによっても様々な環境ストレス耐性を得る。我々は感染シグナルの一つである温度変化(37°C及び25°C)によって、そのバイオフィルム形態が大きく変化することを見出している。つまり、宿主体内温度である37°Cでは本菌は基質に付着した密なバイオフィルム(付着型バイオフィルム)を形成するが、環境中の温度である25°Cでは細胞外マトリクスに富んだ厚く疎なバイオフィルム(膜状バイオフィルム)を形成する。IV型線毛構成成分をコードするpilA2遺伝子欠損株では付着活性が低下し、37°C条件下において付着型バイオフィルム形成量が減少した。さらにpilA欠損株では膜状バイオフィルム形成が促進された。そこで野生株とpilA2破壊株間においてマイクロアレイを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、破壊株において顕著に発現が上昇する遺伝子群を同定した。これらの遺伝子群の破壊株を作成し、バイオフィルム形態の解析を行った結果、これらの遺伝子群はバイオフィルム形態に関与する細胞外マトリクスタンパク質に関与することが明らかとなった。 IV型線毛のPilinをコードするpilA2遺伝子はその他のIV型線毛関連遺伝子と共にオペロンとして転写されたのち、pilA2 mRNA単独が切り出され、蓄積する。タンパク質は線毛の主要構成成分であるため、オペロン中のpilA2のみの発現量を上昇させる機構が存在することが示唆された。さらに、上述のpilA2 mRNA切断には必須エンドリボヌクレアーゼであるRNase Yの関与が明らかとなった。 IV型線毛は本菌のバイオフィルム構造決定に深く関与することが明らかとなり、さらにその構成成分であるpilA2発現は転写後制御によって厳密に調整されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにIV型線毛遺伝子のpilA2と温度に応答したウェルシュ菌バイオフィルム形態変化についてJournal of Bacteriologyに報告した。さらに本年度の目標であったpilA2欠損株における網羅的遺伝子発現解析とトランスポゾンを用いたランダム変化株の解析によって、バイオフィルムに関連する細胞外マトリクスをコードする遺伝子の同定に成功した。以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
同定した細胞外マトリクスタンパク質は自己多量化能をもっており、ポリマーとして細胞外に局在することが明らかとなっている。そこで、本タンパク質がどのように細胞外に分泌され、自己凝集かするのかを明らかとする。細胞外マトリクスタンパク質をコードする遺伝子は周辺の遺伝子と共にオペロンとして転写されることが明らかとなっているため、周辺遺伝子の欠損株を作成し、マトリクスタンパク質の発現や局在、多量化の解析を行う。また、本菌の付着能をより詳細に解析するため、トランスポゾンを用いた変異株ライブラリーより付着能を欠失した変異株の取得を目指す。 以上の解析より、本菌の付着能とバイオフィルム形成メカニズムの詳細を明らかとする。
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