研究課題/領域番号 |
26860283
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 志穂 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (80444074)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 赤痢菌 / インフラマソーム / NAIP / Pyroptosis |
研究実績の概要 |
近年、NAIPsと呼ばれるタンパク質の一群が、病原細菌の認識において重要な役割を担うことが示唆されている。サルモネラ菌感染モデルを用いた報告例では、NAIP5が主にサルモネラ菌の鞭毛構成タンパク質であるフラジェリンを特異的に認識してNLRC4インフラマソームの活性化を引き起こすというモデルが提唱されているが、一方赤痢菌のような非鞭毛性病原細菌の感染はどのようにして認識され、インフラマソーム活性化とそれに伴う激しい炎症応答が引き起こされるのかわかっていない部分が多い。NAIPファミリータンパク質がアダプター分子として機能しNLRC4と病原細菌由来トリガー分子との相互作用がおこるという最新の仮説にヒントを得て、本研究はNAIPsに着目し、赤痢菌をはじめとする非鞭毛性病原細菌の認識機構の解明、及びNAIPsによるリガンド認識特異性決定の機構を解明することを目的として実験を行った。本研究は赤痢菌が感染の際に引き起こす激しい炎症応答に焦点を当てたものであり、本研究により得られた知見は、将来的には炎症を制御する新規薬剤開発への手がかりとなる可能性が期待される。 本年度の研究成果としては、非鞭毛性病原細菌の代表として赤痢菌感染モデルを用い、インフラマソーム活性化を引き起こす赤痢菌由来のトリガー分子の特定を行った。具体的には、赤痢菌エフェクター遺伝子を発現ベクターに組み込み、マウス骨髄マクロファージにて発現させ、Pyroptosis誘導能の検証を行うことによりインフラマソームトリガーとしての活性を検証した。次に特定したトリガー分子が活性化しているインフラマソームはNLRC4であることを、siRNAノックダウン実験及びNLRC4-KOマウス由来のマクロファージ細胞を用いた赤痢菌感染実験により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本実験計画にはプライマリマクロファージ細胞を用いたトランスフェクションの実験系 (siRNAノックダウン、及び過剰発現系)が重要な位置を占めているが、プライマリマクロファージ細胞は扱いが難しく、特にトランスフェクション系との相性は悪く、これまでに一般的に行われている手法では十分な効率を得ることができない。従って、効果的な実験系を確立するために数ヶ月から場合によっては1年以上の期間を見積もっていた。しかしながら、実験計画の早い段階でトランスフェクション効率を上げる効果的な手法を見つけることができ、予測していたよりも順調に実験データ取得できるようになった。さらに、所属先である東京大学医科学研究所の研究環境は非常に充実しており、本研究計画の進展に寄与するところが大きかった。従って、平成26年度分の実験として計画書に示した分はほぼ完了することができた。以上のように実験手法の確立が予想以上に順調に進んだことから、実験計画は当初の想定以上に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究課題の推進方策については、基本的に当初の予定通りに進めつつ、前項に述べたように進展状況が順調であることから、実験計画を追加して予定している。 これまでの研究において、赤痢菌感染に伴い誘導されるインフラマソーム活性化は、赤痢菌のMxiIとIpaH7.8に依存的であることが判明したため、この両因子とNAIPsとの関連性を重点的に検証する。具体的には、各種NAIPsのshRNA/siRNAノックダウン解析により赤痢菌トリガー分子がどのNAIP依存的にインフラマソームを活性化させるのか特定する。同時に、赤痢菌トリガー分子を発現させた細胞中におけるNAIPの挙動を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察する。また、インフラマソーム複合体は細胞中に1つの大きなスポットとして確認されるが、赤痢菌トリガー分子及びNAIPとインフラマソーム複合体の挙動を観察する。更にASC重合体構造との局在関係を検証する。次に、赤痢菌トリガー分子と各NAIPsファミリータンパク質間の結合特異性を検証する。各NAIPsをクローニングし、yeast 2 hybrid、GSTプルダウンアッセイ、免疫沈降法等の手段を用いることを予定している。既報論文ではサルモネラ菌のフラジェリンがNAIP5を結合することが報告されているため、本報告の再現性を確認しつつこれをコントロールとして用い同時に検証する。NAIPsは活性体として高次構造をとるという仮説が提唱されているため、共焦点レーザー顕微鏡観察及びイムノブロット解析の手段を用い、NAIP高次複合体構造の検出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、第一には安価な実験系の確立に成功し経費の節約ができたためである。本研究計画において重要な位置付けにあるマクロファージ細胞に対するトランスフェクション実験は、使用するnucleofectorのキットが高価であるため、それをふまえて支出予定額を算出していた。しかしながら、本実験計画を遂行する過程で安価な手法を模索し、安価且つ効率の良い手法を確立することができた。また、本実験計画で多用しているELISAキットも主流メーカーのものは高価であるが、安価で品質のよいキットの選定を行い、大幅にコストダウンすることができた。第二の理由としては、国際会議での口頭発表のための経費として計上していた分が他の財源から補助により賄うことができたためである。また、予定していた英文添削及び実験補助のための人件費・謝礼については、共同研究者の協力によりかからず経費削減することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の使用内訳としては、実験計画を施行するうえで必要な機器類、培地・プラスチック製品・試薬類・抗体などの消耗品費、シークエンス解析・プライマー作成・siRNA作成などの依頼費用、各種サイトカイン測定用ELISA、LDH等のキット類の購入に充てることを計画している。次年度に繰り越した分の予算は、追加した実験計画のための費用に充てる予定である。更に本研究により得られた成果は、来年度に論文投稿及び国内外における学会発表にて積極的に情報公開を行う予定であり、そのための論文校正費、論文投稿料、学会参加のための経費に充てることを企図している。
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