研究課題
腸チフスの原因菌であるサルモネラチフス菌は、マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞に取り込まれても、III型分泌装置を用いてエフェクター分子を標的となる免疫細胞に送り込むことで、免疫細胞による貪食作用を回避し増殖する性質を持つ。これがチフス性疾患の発症に関与していることが知られている。しかしながら、III型分泌装置がどのような分子機構でエフェクター分子を分泌するのかは明らかになっていない。本研究はin situの構造情報を得ることができる低温電子線トモグラフィーを用いて、エフェクター分子分泌時のIII型分泌装置の構造解析を行うことで、複雑な病原因子分泌メカニズムの解明を目指す。エフェクター分子分泌時のIII型分泌装置の構造解析を行うためには、免疫細胞に取り込まれ、貪食回避時のIII型分泌装置を可視化する必要がある。そこで本年度は、マウスの骨髄から分化誘導系を利用してマクロファージや樹状細胞を回収し、構造解析に適した免疫細胞の検討を行った。また、以前の研究で申請者が作製したネズミチフス菌ミニセル内に蛍光タンパク質EGFPを発現させ、免疫細胞感染時のサルモネラの局在位置を簡便に認識できる系を確立した。今後、蛍光顕微鏡で観察した場所と同一の場所を透過型電子顕微鏡で観察する光-電子相関顕微鏡法を用いることで、効率良くIII型分泌装置の構造解析が可能になると期待される。しかし、免疫細胞感染時のサルモネラ内に必ずしもIII型分泌装置が発現しているとは限らない。そこでIII型分泌装置の構成タンパク質に蛍光タンパク質を結合させた変異株を作製し、効率良く細胞内でのIII型分泌装置の可視化、構造解析を進めていく。
3: やや遅れている
構造解析に適した免疫細胞の検討に遅れが生じているが、ネズミチフス菌ミニセル内に蛍光タンパク質EGFPを発現させた変異株の作製に成功するなど、免疫細胞内のIII型分泌装置の可視化、構造解析に向けた試料作製は計画通りに進んでいる。
引き続き、構造解析に適した免疫細胞の検討を行う。また、作製した変異株と光-電子相関顕微鏡法を用いて免疫細胞内のIII型分泌装置の可視化、構造解析を進めていく。
構造解析に適した免疫細胞の検討に遅れが生じ、予定していた電子顕微鏡観察用グリッドの購入を見送ったため、繰越金が発生した。
今年度は主に電子顕微鏡観察を行うため、試料凍結用のエタンガスや電子顕微鏡観察用グリッドを購入する。
すべて 2015 2014
すべて 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件)