研究課題
大腸菌をはじめとする多くのグラム陰性菌は外膜小胞(OMV)を産生する。OMVは、内包する様々な細菌由来分子を宿主細胞へ輸送しうることが報告されており、細菌の生存戦略においては、一種の飛び道具となる。しかしながら、詳細なOMV産生メカニズムは未だ解明されていない。本研究では、腸管外病原性大腸菌が保有する病原プラスミド上にコードされているヘモリジンF遺伝子(hlyF)が、OMVの産生誘導に強く関与していることを明らかにした。また、hlyF遺伝子上には糖の異性化に関与するepimeraseドメインが存在し、OMVの産生誘導にはそのドメインが必須であることを明らかにした。今年度は、HlyFによるOMV産生誘導に関与する遺伝子を明らかにするため、HlyF産生株とepimeraseドメイン変異株を用い、対数増殖期における両者の遺伝子発現変動についてRNA-seqを実施した。RNA-seq解析の結果、有意に発現の減少が認められたのは59遺伝子存在し、その半数以上が鞭毛形成に関与する遺伝子であった。一方、HlyF産生株において有意に発現の上昇が認められたのは19遺伝子存在し、その多くが転写もしくは代謝に関与する遺伝子群であった。OMVはワクチンとして利用することも可能であり、近年、髄膜炎菌をはじめとする様々な病原細菌へのワクチン開発に利用する試みが行われている。本研究で得られた成果は、hlyF遺伝子の誘導により大量のOMVを産生することが可能となったことから、より効率的なワクチン開発への応用が期待される。これまでの研究成果については、フランスの研究グループとともに米国感染症学会の学術誌であるJournal of Infectious Diseasesに報告した (Murase K, et al. 2016. J Infect Dis. 213(5):856-865.)。また、現在、フランスの共同研究者とともに「NEW METHOD FOR PRODUCING OUTER MEMBRANE VESICLES」として国際特許を出願中である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Scientific reports
巻: 6 ページ: 30997
10.1038/srep30997
BMC Microbiology
巻: 16(1) ページ: 237
10.1186/s12866-016-0858-5