研究課題
臨床上重要な日和見感染症起因菌であるPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)の腸管腔からのトランスロケーション機構を解明し、宿主環境に応じた細菌の感染メカニズムに基づく新たな予防および治療法考案のためのターゲットバリデーションを行なう。本研究では、緑膿菌トランスロケーションの初期段階である「緑膿菌の腸管上皮細胞感知メカニズム」にターゲットを絞って解析した。ヒト結腸癌由来Caco-2細胞の培養上清は緑膿菌のムチン層透過を亢進した。緑膿菌のムチン層透過には鞭毛運動が必要である。Caco-2細胞培養上清は、本菌の鞭毛依存性の菌体運動および鞭毛回転速度を増大させた。これら亢進はトリプシン処理で消失し、さらに限外濾過膜を用いて回収した10 kDa以下の画分に亢進作用があることが分かった。本研究によって、上皮細胞が分泌する10 kDa以下のタンパク質を感知した緑膿菌は鞭毛運動が亢進し、ムチン層を透過することが分かった。当初計画していた緑膿菌が感知する上皮細胞成分を同定できなかった。これは、緑膿菌の表現型探索や鞭毛回転運動の実験系構築に、時間を要したためである。現在、これらの点は改善され、緑膿菌が感知する上皮細胞分泌物質の候補を得ており、今後、緑膿菌が感知する上皮細胞成分を同定できると考える。また、本研究過程で我々は、緑膿菌が上皮細胞を感知することで緑膿菌トランスロケーションに必要なIV型線毛フィラメント伸縮モーター遺伝子の発現量が変化することを見出し、論文で発表した(J.Infect.Chemother. 22:216, 2016)。今後、本研究成果をもとに解析を進め、緑膿菌トランスロケーション機構を明らかにし、本菌感染症の新たな予防および治療薬考案のためのターゲットバリデーション、さらには腸管内バクテリアルトランスロケーションの新たな概念の構築につなげていきたい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
J. Infect. Chemother.
巻: 22 ページ: 216-220
10.1016/j.jiac.2015.12.012
http://www.kyoto-phu.ac.jp/labo/bisei/index.html