研究課題/領域番号 |
26860297
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 祥美 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70447051)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エボラウイルス / リバースジェネティクス / マクロファージ |
研究実績の概要 |
エボラウイルスの主要標的細胞はマクロファージや樹状細胞であるといわれているが、これらの細胞がエボラウイルス感染の致死的病態にどのような役割をはたしているかは未だ不明である。本年度はまず確認実験としてエボラウイルスの感染実験に汎用されている細胞株およびマウスより採取した腹腔内マクロファージ細胞についてターゲットとしたmicroRNAの発現をqRT-PCR法により確認した。その結果Vero細胞、Huh7細胞などでは調べたmicroRNAの発現は検出限界以下であったが、マクロファージ由来細胞株およびマウス腹腔内マクロファージ細胞では発現していることが確認された。次に、昨年度に引き続いて作出した組換えウイルスを用いてこれらの培養細胞でのウイルス増殖実験を行った。エボラウイルスおよび遺伝子全長を扱う実験は日本国内では許可されていないため、以下の実験はすべて米国のBSL4施設において実施した。ヒト肝癌由来であるHuh7細胞での組換えウイルスの増殖は対照として用いた親株と同様であったが、ヒトマクロファージ系細胞株であるU937細胞、およびHuh7細胞にmicroRNA-mimicを導入してターゲットmicroRNAを強制発現した細胞ではウイルス増殖が抑制されることが確認された。またマウス由来マクロファージ細胞株やマウスより採取した腹腔内マクロファージ細胞でも同様に組換えウイルスの増殖抑制が観察された。マウス由来細胞でもヒト由来細胞と同様にウイルス増殖抑制が確認されたことから、親株と組換えウイルスをマウスに実験感染してその生残率を比較した。その結果、組換えウイルスを接種されたマウスはほぼすべて生残し、親株と比較して病原性が減弱していることが確認された。すなわちエボラウイルスの致死的病態発現にはマクロファージ系細胞での増殖が重要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は作出したmicroRNAのターゲット配列を組込んだ組換えウイルスを用いた感染実験を行った。培養細胞を用いた増殖実験により、マクロファージで多く発現していると推定されるmicroRNAのターゲット配列をmRNAに組込んだ組換えウイルスは対照株と比較して、目的のmicroRNAが発現しているマクロファージ由来細胞株およびマウスの腹腔内マクロファージ細胞で特異的にウイルス増殖が抑制されることが確認された。この結果をもとに計画通りマウスへの感染実験を行い、エボラウイルスの致死的病態発現にはマクロファージ系細胞での増殖が重要である可能性を示唆する結果を得ることができた。しかしマウスへの感染実験において対照として用いた親株の病原性が過去の予備実験より減弱していた。そのため病原性の比較実験に引き続いて行う予定であった病態に関与する宿主応答の比較については延期することとなった。本課題は翌年度に繰り越しを予定しており、親株の病原性を再確認した後に、組換えウイルスと親株の感染により誘導される宿主応答の比較を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、H27年度に実施した感染実験を継続して他系統マウスを用いる解析や、より詳細なマウスへの感染実験を行うことで親株の病原性を再確認したのち、病原性の比較解析実験を行う予定である。更にコントロールとして逆配列を組込んだウイルスの作出を行っており、作出した組換え対照ウイルスについても培養細胞を用いてウイルス増殖の変化を確認するとともに、免疫応答などの宿主反応について組換えウイルスおよび親株と比較していく予定である。さらにマウスの実験感染では、病原性の変化、更にその変化をもたらしているウイルス増殖や宿主応答を解析することで、マクロファージでのウイルス増殖が病態にどのように関与しているか解明していく計画を立てている。実際には血液、腹腔内マクロファージ、肝臓及び腎臓などのエボラウイルスの標的組織を経時的に採材し、病理学的、ウイルス学的解析によりウイルスの組織指向性とウイルス増殖を解析する。さらにマクロファージや樹状細胞でのウイルス増殖がこれまでに報告されている宿主応答誘発に必要かを解明するため、サイトカインやインターフェロンの産生、血液凝固因子の増減などの宿主応答を比較解析する予定である。一方で米国滞在期間は限られるため、ウイルスを用いた解析だけでなくタンパク質を用いた解析を日本国内でも引き続き行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスへの感染実験を行い組換えウイルスのマウスへの病原性を解析した結果、エボラウイルスの致死的病態発現にはマクロファージ系細胞での増殖が重要である可能性を示唆する結果を得た。しかし対照として用いた親株の病原性に過去の予備実験と比べて予測し得ない減弱が確認された。そのため生残率の確認実験に引き続いて行う予定であった宿主因子の解析を延期することとなったため次年度への繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は親株および対照株を追加した追試を行うとともに、マウスへの感染実験では病原性の変化やその変化をもたらしているウイルス増殖や宿主応答を解析する予定である。そのため米国への出張旅費および物品費、また成果報告のための学会参加旅費として使用する予定である。
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