研究課題/領域番号 |
26860302
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
芳田 剛 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (00727521)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | HIV-1 / レトロウイルス / 抗ウイルス蛋白質 / BST-2/tetherin / ウイルスの進化 / 霊長類 / エイズ / 種差 |
研究実績の概要 |
チンパンジー免疫不全ウイルス(SIVcpz)はHIV-1へと進化する過程で、抗ウイルス活性を持つ宿主BST-2蛋白質(tetherin)の克服方法を、Nefを用いる手段からVpuを用いる手段へと変化させた。本研究の目的は、HIVを含む霊長類免疫不全ウイルスのBST-2克服の分子機序と、ウイルスがBST-2克服法を変遷させた進化の分子機序を解明することである。先行研究で確立したVpu蛋白質とBST-2蛋白質の結合評価系を用いて、様々な霊長類免疫不全ウイルスのVpu、Nef蛋白質とヒトおよびチンパンジー、サル種のBST-2間における物理的相互作用の効率を評価した。 最初に、BST-2克服能のないSIVcpz(MB897株)のVpuは、チンパンジー、ヒトBST-2と結合しないことを見出した。また、このVpuにチンパンジーBST-2との結合モチーフを付加するとBST-2を克服する為、SIVcpz VpuがBST-2を克服できない原因は、BST-2と結合しないからであることが示唆された。さらに、このVpuは膜貫通部位を介してアカゲザルBST-2と結合する事実を見いだした。また、2株のHIV-1のVpu(NL4-3株とDH12株)は膜貫通部位を介してヒトBST-2と結合し、チンパンジーBST-2とは膜貫通部位に加え細胞内部位5アミノ酸を介して結合していることが判明した。 一方、BST-2克服能のないHIV-1 NefとサルBST-2を克服するSIVmac239のNefを用いて、BST-2との結合能を評価したところ、双方のNef がともにヒトおよびサルBST-2と結合することが判明した。この事実から、NefにとってBST-2との結合がBST-2克服の十分条件ではないことが示唆された。また、Nefのミリストイル化部位である2番目のグリシン残基を置換すると、その結合能の大半を失うことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進捗している。 交付申請書に記載した「研究の目的」の大半について実験を行い、いくつかの興味深い結果を得た。「研究実績の概要」に記載したVpuに関する知見は、今後補足の実験を行い、論文化する計画である。また、HIV-1とSIVのNefとBST-2間の結合に関しても、補足実験を行い、実験結果を論文化する可能性を追求する。さらに、Vpuに関する研究から得られた知見をもとに、実験計画の延長線上の研究へと発展させている。すなわち、ウイルスの種間伝播における「ウイルスの進化」に加え、研究計画段階において言及した「宿主の進化」にも焦点を当て、「宿主とウイルスの鬩ぎあいによる宿主進化」の分子機序についても解明したいと考えている。 一方で昨年度中には、HIV-2のEnvのBST-2との結合能を評価実験、および、Vpuとの結合後にBST-2に起きる「第2段階の事象」の解明にむけた生化学的実験の結果を得ることができなかった。2015年4月に研究代表者の異動に伴い、研究環境に変化が生じたが、細胞生物学的・生化学的実験を行う環境としては以前よりも適した環境であり、生化学的実験も並行して推進していけるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に発見した細胞内部位5アミノ酸を介したBST-2とVpu間の結合に着目して研究を進めていく。この5アミノ酸は、ヒトを除く霊長類のBST-2に保存されているため、この分子間の結合は、HIV-1の祖先ウイルスがかつてサルに感染していたことを示す「痕跡」の可能性がある。しかし、HIV-1の直近祖先ウイルスと考えられているSIVcpzのVpuはこの5アミノ酸と結合せず、むしろ膜貫通部位を介してサルBST-2と結合する。そのため、「HIV-1進化の中間体」であるSIVcpz Vpuが、「進化の最終形」HIV-1 Vpuの痕跡を持たないばかりか、異なる痕跡を持つことを意味する。そこで今年度はHIV-1 Vpu、SIVcpz Vpuの祖先蛋白質が何であるかを解明するため、SIVcpzの祖先ウイルスの候補と考えられている、Vpuを持つウイルス(SIVmon、SIVmus、SIVgsn)のVpuについて、宿主サルやチンパンジーのBST-2との結合試験や機能試験を行う。 一方、HIV-1 Vpuが結合するBST-2の5アミノ酸は、ヒトへと進化する過程で欠失したと考えられる。抗ウイルス蛋白質のアミノ酸配列における種間相違は、ウイルス感染を選択圧とした宿主進化の「痕跡」である可能性が高い。そこで、BST-2蛋白質の進化に関わったウイルスが存在する可能性を考え、Vpuの細胞内部位と相同性のあるウイルス蛋白質をデータベース上で検索し、BST-2との関連が報告されていない、いくつかのウイルス蛋白質を候補に挙げた。今後BST-2克服能やBST-2との結合能を評価する。昨年度に進捗させることができなかった、HIV-2のEnvについても準備を進め、同様の評価を行う。 HIV-1 VpuとヒトBST-2との結合については既に共同研究者等が報告しているため、今後の計画には含めない。
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