エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)は、ウイルス蛋白質Vpuを用いて、宿主の抗ウイルス蛋白質BST-2(tetherin)を克服している。昨年度までに、HIV-1 VpuとBST-2間の物理的相互作用を検出し、その結合に重要な部位を見出した。さらに、BST-2の45番目のスレオニン残基はVpuに克服されるうえで重要にもかかわらず、結合には重要でないことが明らかになった。このスレオニン残基がVpuの作用によりリン酸化修飾を受ける可能性を考え、リン酸化状態を擬態するグルタミン酸残基へと置換したBST-2変異体を作製した。野生型のBST-2と比較して、Vpu存在時ならびにVpu非存在時の機能に変化がなかったため、この残基のリン酸化が重要な役割を果たす可能性は示唆されなかった。 次に申請者は、昨年度までに見出したHIV-1 VpuがサルBST-2やチンパンジーBST-2の細胞内部位と結合する事実に着目した。Vpuの細胞内部位とヒトに感染するヘルペスウイルスが発現する蛋白質がアミノ酸配列において相同性を有することを見出した。BST-2機能の阻害活性を評価したところ、チンパンジーBST-2の機能を阻害するが、ヒトBST-2を阻害しないという結果を得た。BST-2は、HIV-1だけでなくエンベロープウイルスの放出を幅広く抑制すること、それに対して多くのウイルスがBST-2を克服する機構を持つことが報告されているが、本研究結果と類似する報告はない。現在、本現象の作用機序解明のための解析をしており、結果を得られ次第、論文を投稿する計画である。
|