新規肝硬変治療薬候補ICG-001誘導体はコラーゲン線維分解系に影響を与えて脱線維化作用を示す。脱線維化作用を担う分子候補マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-8とMMP-9)を見出し、HCV遺伝子発現により抑制されたMMP活性がICG-001誘導体投与により正常レベルまで回復することを示した。これらMMP-8とMMP-9の主な産生細胞は、誘導体投与後に増加した好中球およびマクロファージであることを示した。 また、肝臓内のInterleukin-1 beta (IL-1 beta)はHCV遺伝子発現により増加し、ICG-001誘導体投与により減少することが明らかとなった。IL-1 betaは慢性肝炎の病態に寄与することが知られており、ICG-001誘導体は肝硬変のみならず肝炎に対しても改善作用を示すと考えた。 平成29年度は、ICG-001誘導体によるケモカイン産生を比較解析した。選択的Wnt/beta-catenin/CBPシグナル阻害剤ICG-001誘導体の作用と機序は、HCV遺伝子型1bスイッチング発現トランスジェニックマウス(慢性肝炎・肝線維症を発症)にICG-001誘導体を6週間投与後に採材した検体を用いて解析した。肝臓抽出液を用いた多項目解析(Bio-Plex)の結果、ICG-001誘導体投与により産生が増加するケモカインは検出されなかった。肝臓組織全体を用いた手法ではICG-001誘導体の作用機序解明は難しいと考え、1細胞トランスクリプトーム解析を用いて肝臓リンパ球内の個々の細胞の遺伝子発現解析を実施した。その結果、ICG-001誘導体により増加するマクロファージ・好中球を含むクラスターを見出した。線維分解酵素を産生する細胞群はそれらとは異なるクラスターに含まれており、誘導体により増加したクラスターから影響を受けて細胞の性質が変化した可能性が示唆された。
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