本研究では肺動脈性肺高血圧症の発症メカニズムを解明することを目的としている。この疾患の原因である肺動脈の肥厚メカニズムは依然不明である。平成27年度は引き続き申請者らが開発した動物モデルを用いた研究を行い、血管肥厚メカニズムの解明に努めた。 本動物モデルでは長期的(3週間)なIL-33投与により肺組織の血管肥厚が誘導されるが、前年度までにILC2細胞と好酸球が血管周囲で劇的に増加していることを報告した。好酸球の関与が示唆されたために、27年度は好酸球欠損マウスを利用し検討した。予想通りに好酸球欠損マウスでは血管肥厚の抑制が観察された。次に実際に肺動脈性肺高血圧症の治療に使われている薬剤を用い試験した。その結果、血管肥厚は抑制され、好酸球の減少も確認された。これはIL-33誘発性の血管肥厚がヒト肺動脈性肺高血圧症の発症メカニズムを反映している可能性を示唆するものである。 続いてヒト検体での検討を行った。ここでは肺高血圧症と診断された肺組織検体の血管周囲を観察した。すでに著しい肥厚がみられる血管周囲には好酸球は確認されなかったが、軽度の肥厚がみられる血管周囲には好酸球の存在が確認された。これは血管肥厚の比較的早期に好酸球が関与し、その後は血管から離脱したものと推察される。ヒト肺動脈性肺高血圧症では長い年月を経て血管肥厚が誘導されるため、実験動物にさらに長期間(11週間)IL-33を投与し試験した。すると血管周囲のILC2と好酸球はほぼみられなくなった。これは上述の仮説を支持する研究成果であると考える。 本年度の成果からILC2が血管周囲に移行し、好酸球が集積することで血管肥厚が誘導されることが明らかとなった。血管の肥厚課程におけるILC2・好酸球の関与はこれまでにほとんど報告がなく、新たな視点から治療法開発に向けた肺動脈性肺高血圧症の研究を行う礎を築くことができた。
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