研究課題
生体の防御システムである免疫系において、B細胞は抗体を産生し異物を排除する重要な役割を担っている。B細胞が骨髄内で分化する過程において、B前駆細胞がサイトカインIL-7の刺激を受け取ることが必須であることが知られている。しかしながら、B細胞分化を支持するIL-7産生ストローマ細胞は同定されていない。そこで本研究では、骨髄IL-7産生ストローマ細胞を網羅的に同定し、B細胞分化が起こる骨髄微小環境の性状を明らかにすることを目的としている。全ての免疫細胞は造血幹細胞を起源として分化する。造血幹細胞の維持にはケモカインCXCL12が重要であり、CXCL12は長い突起を伸ばす細網細胞(CAR細胞)で高発現し、洞様毛細血管の内皮細胞や骨内膜の骨芽細胞においても一定の発現量があることが知られている。そこで、これらの各ストローマ細胞がIL-7を産生するかどうか検討した。IL-7の産生を可視化するためIL-7-GFPノックインマウスを作製し、骨髄の切片染色およびフローサイトメトリー解析を行った。その結果、IL-7を産生する細胞の約85%はCAR細胞であり、約10%はIL-7産生性の血管内皮細胞であることが判明した。従って、骨芽細胞を含むその他のストローマ細胞はIL-7を殆ど産生していないことが明らかとなった。また、CAR細胞全体の中では約65%がIL-7を産生すること、IL-7産生性の血管内皮細胞は小動脈ではない洞様毛細血管の内皮細胞であることも判明した。今後は、各ストローマ細胞特異的にIL-7を欠損させたマウスの骨髄細胞を解析し、実際にB前駆細胞に障害が起きているかを調べることで、B細胞分化を支持する骨髄微小環境(niche)の実態を明らかにすることを目指す。
2: おおむね順調に進展している
当該年度に計画していたIL-7-GFPノックイン・マウスを用いた骨髄ストローマ細胞解析は、ほぼ予定通りに実施することが出来た。骨髄では主にCAR細胞がIL-7を産生しており、血管内皮細胞よりもIL-7を高発現していることが判明した。また、各種ストローマ細胞でIL-7を欠損させたマウスの解析も開始し、骨髄IL-7産生細胞の局所機能が明らかになりつつある。
CAR細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞の各々で特異的にIL-7を欠損したマウスの交配を進める(Lepr-Cre x IL-7cKOマウス、Tie2-Cre x IL-7cKOマウス、Col2,3-Cre x IL-7cKOマウス)。それぞれのIL-7cKOマウスについて、標的ストローマ細胞におけるIL-7の欠損効率をqPCR法により定量化する。また、骨髄内のIL-7タンパク質もELISA法により定量する。これをcontrolマウスと比較し、骨髄で産生されるIL-7タンパク質の減少量を数値化する。その後、各ストローマ細胞特異的IL-7cKOマウスの骨髄をフローサイトメトリー解析し、CLPやB前駆細胞の細胞数の減少量を比較する。Lepr-Cre x IL-7cKOマウスにおいて、CLPやB前駆細胞が著減する結果が得られた場合、CAR細胞がB細胞分化nicheの構成細胞であると予測することができる。そこで、骨髄の免疫組織染色を行い、CLPやB前駆細胞がCAR細胞と近接して局在しているかどうかを判定する。
高額抗体が廉価で購入可能となったため当該助成金が生じた。
FACS解析用ソフトウェアを追加購入するために当該助成金を使用する予定である。翌年度分として請求した助成金と合わせて、直接経費の殆どを消耗品購入に充てる。特にフローサイトメーターを用いた解析に多種類の抗体が必要となる。また切片染色にも多数の抗体を使用する。他に純系マウス個体の購入や実験用器具として、チューブ、チップ、注射筒、組織切片用スライドガラスなどの消耗品を購入予定としている。また、実験全般に用いるアルコール類が必要な実験試薬である。その他は、他大学の研究協力者との打ち合わせや、学会発表に旅費として充てる予定である。研究代表者が所属する京都大学ウイルス研究所には、本研究で必要となる大型機器はほぼ全て備えられている。
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10.1073/pnas.1318281111
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10.1016/j.imlet.2014.05.005
http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/
http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/ikuta.html