メモリーCD8T細胞は外来抗原が生体内から除去された後でも免疫系に長期間生存し、高い生体防御能力を維持する。我々は、MHCクラスII(MHCII)欠損マウスにおけるメモリーCD8T細胞の恒常性維持破綻が、CD4T細胞の欠損が原因ではなく、MHCII分子の欠損自体がメモリーCD8T細胞の恒常性に影響を及ぼし、活性化T細胞の特徴(CCR7の発現減少、ccna2 mRNAの発現上昇)を付与することを見出してきた。 そこで、MHCII欠損環境下ではT細胞が活性化しやすいため恒常性破綻をきたすという仮説を考え、この仮説を検証するために以下の実験を行った。MHCII欠損マウスまたは野生型マウスに移入したメモリーT細胞の遺伝子発現パターンを、RNA-Seqの手法を用いて比較したところ、ccna2のみならず、S期からM期に発現する細胞周期関連分子群の発現がMHCII欠損マウスに移入したメモリーT細胞で上昇していた。さらにサイトカイン刺激により発現が上昇する遺伝子群が検出され、MHCII欠損マウスに移入したメモリーT細胞はエフェクターへの分化が誘導されているのではないかと考えられた。 SPF環境下で飼育したマウスのT細胞が活性化する原因として、マウス個体内に存在する常在細菌叢が候補として挙げられる。そこで、MHCII欠損マウスに抗生物質が入った飲料水または抗生物質なしの飲料水を摂取させる群を用意し、移入したメモリーT細胞への影響を検討したところ、メモリーCD8T細胞の恒常性維持に、常在細菌の減少は影響を及ぼさなかった。またMHCIIとMyd88を欠損するマウスにおいてもMHCII欠損マウスと同様にメモリーT細胞の数が減少したことから、Myd88シグナル非依存的にMHCII欠損抗原提示細胞の異常が誘導されていると考えられた。 以上の結果から、MHCII欠損マウスにおいてメモリーT細胞は常在細菌およびMyd88非依存的に活性化され、エフェクターT細胞となり、恒常性維持が破綻すると考えられた。
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