研究課題/領域番号 |
26860333
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柴田 俊生 九州大学, 高等研究院, 助教 (00614257)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トランスグルタミナーゼ / キイロショウジョウバエ / IMD経路 / 自然免疫 / 腸管免疫 / 免疫寛容 / 架橋反応 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
腸管では、病原性細菌に対しては自然免疫による排除を行う一方で、常在細菌に対しては排除することなく、腸内への維持を行っている。このように、腸管では免疫系を巧にコントロールしながら腸内細菌の恒常性を精緻に制御している。しかしながら、腸内環境の動的平衡を維持する機構は、哺乳類から無脊椎動物にわたり、依然として未解決の問題である。そこで、キイロショウジョウバエの遺伝子ノックダウン技術や生化学的解析により、腸管恒常性維持機構、ひいては、全身性の免疫維持機構を分子レベルで解明することを目的とする。 腸管においては、IMD 経路と呼ばれる自然免疫経路によって、殺菌性の抗菌ペプチドが産生され、腸内細菌に対する応答を行っている。一方で、外来性の高病原性細菌に対しては、抗菌ペプチドの他に、囲食膜と呼ばれる構造体が防御の一翼を担っている。囲食膜は、不溶性の多糖であるキチンとキチン結合性タンパク質からなる半透性の膜で、外部から侵入してきた細菌などが、腸管上皮細胞に直接触れるのを防ぐ防御壁として働いている。昨年度は、タンパク質の架橋反応、いわばタンパク質の「糊付け」に関わる酵素であるトランスグルタミナーゼが、囲食膜構成タンパク質を直接架橋することにより、強固な囲食膜形成を行っていることを見出した。トランスグルタミナーゼにより強固に形作られた囲食膜は、高病原性細菌が分泌する毒素からの耐性に必須であり、トランスグルタミナーゼ発現抑制系統においては、毒素に対し易感受性で、高病原性細菌感染時に短命となることが明らかとなった。さらに、該当年度には、囲食膜破壊性の毒素プロテアーゼを同定し、トランスグルタミナーゼ~囲食膜構成タンパク質~毒素プロテアーゼの3者間相互作用を重点的に解析し、高病原性細菌に対するトランスグルタミナーゼの重要性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に達成すべき、囲食膜形成に関わるトランスグルタミナーゼの基質タンパク質の機能解析が概ね終了した。具体的には、囲食膜の構成に直接関与するドロソクリスタリンがトランスグルタミナーゼにより高度に架橋されること、架橋体ドロソクリスタリンは強病原性細菌が分泌する毒素プロテアーゼからの防御に必須であること、さらに質量分析を用いた解析により強病原性細菌の分泌する囲食膜破壊プロテアーゼが明らかとなった。 上記の結果は、国際誌に投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究過程で、新規囲食膜構成タンパク質を同定した。今年度以降は、このタンパク質の詳細な機能解析やトランスグルタミナーゼおよびドロソクリスタリンとの相互作用などを調べる予定である。 また、細菌感染時におけるトランスグルタミナーゼの発現量と活性の解析を行う。腸管に細菌が侵入すると、自然免疫を担う IMD 経路が活性化し、抗菌ペプチドの産生が促される。一方で、常在細菌に対しては、トランスグルタミナーゼは IMD 経路の転写因子 Relish を架橋し不活性化することで、抗菌ペプチドの産生を抑制し、免疫寛容を引き起こしている。したがって、細菌感染時には、生体防御の観点から、免疫寛容の機構を解除しなければならない。そのため、感染時におけるトランスグルタミナーゼ活性とその制御機構は、重要な問題である。予備実験の結果から、ある種の細菌感染時にはトランスグルタミナーゼの mRNA レベルでの発現量が低下することが判明している。今後は、常在細菌および病原性細菌をそれぞれ感染させた腸管のトランスグルタミナーゼの発現量を、定量的 PCR やウエスタンブロットにより定量するとともに、細胞内でのトランスグルタミナーゼ活性も定量する。
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備考 |
The Journal of Biological Chemistryに共著者として発表した論文の研究成果に関するプレスリリース(2014年9月11日掲載)。
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