研究課題/領域番号 |
26860335
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
赤星 智寛 熊本大学, エイズ学研究センター, 特定事業研究員 (10635783)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | HIV-1 / CTL / 逃避変異 / 変異の蓄積 / 増殖制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本人HIV-1慢性感染者集団において逃避変異の蓄積率が低いCTLエピトープを指標に、逃避変異型HIV-1の増殖制御に寄与するCTLの存在を検証する。平成26年度は、HLA-B*54:01に提示されるPol155-165エピトープ(FPISPIETVPV: WT)の逃避変異型(FPISPIDTVPV: 7D)に着目し(蓄積率約20%)、HLA-B*54:01陽性HIV-1感染者において誘導されているCTLの抗ウイルス機能と、エピトープシークエンスの変化を長期的に解析した。 感染初期から経過観察できた2人では、WTウイルスから7Dウイルスが選択され、感染慢性期から経過観察できた3人では、WTと7Dの両ウイルスが比率を変えながらも併存していた。感染者のPBMCを用いてWTと7Dペプチドに対する応答を調べた結果、感染初期の2人では、7D選択前にWTと7Dペプチドに対して応答が見られ、そのうち1人では、7D選択後7Dペプチドに対する応答が優位になった。感染慢性期の感染者のうち実験可能であった2人では、両ペプチドに対する応答が観察中維持されていた。さらに、その2人のPBMCをテトラマーで染色した結果、7D特異的なT細胞が優位に検出され、またWTと7Dに結合する交差反応性のT細胞も検出された。そのうち1人の慢性感染者から樹立した7D特異的CTLクローンと交差反応性CTLクローンは、ウイルス感染CD4陽性T細胞に対して、7Dウイルスと両ウイルスの増殖をそれぞれ抑制した。 これらの結果は、7Dウイルスに対して増殖抑制能を有するCTLが7Dの低頻度な蓄積に寄与している可能性を示唆している。さらに7Dウイルス感染者においてもそのようなCTLが誘導され、HIV-1の増殖制御に寄与していることが考えられる。 平成27年度は、他の変異低蓄積エピトープについて、同様のことが起きているか検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定した仮説について、1つ目の変異低蓄積エピトープであるPol155-165エピトープにおける検証の結果、期待したように変異ウイルスに対して増殖抑制能を有するCTLの存在を明らかにすることができ、変異の低頻度な蓄積への寄与を示唆することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、Pol155-165エピトープの検証によって得られた結果が、他のエピトープにおいても当てはまるのか検証する。 まず対象とする変異低蓄積エピトープを我々のグループが有する日本人HIV-1慢性感染者集団のGag, Pol, Nef領域のシークエンスデータから探索する。最終的に変異ウイルス感染者の感染急性期もしくは感染初期の検体を用いた検証をおこなうため、日本人集団において分布頻度の比較的高いHLAクラスⅠ分子に提示されるエピトープを対象とする。具体的には、HLA-A*24:02, A*02:02, B*52:01, C*01:02, C*12:02など分布頻度が20%以上のHLAクラスⅠ分子に提示されるエピトープを対象とする。 次に、探索したエピトープについて、変異ウイルスに対して増殖抑制能を有するCTLの存在を検証する。平成26年度の結果から、感染慢性期に得られた検体を用いることでも、変異ウイルスに対して増殖抑制能を有するCTLの存在を検証することができると考える。そこで、まず、感染慢性期の検体を用いて検証をおこない、次に変異ウイルス感染者の感染急性期もしくは感染初期の検体を用いて検証をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
長期的に観察可能であった検体の解析に時間を要し、感染急性期もしくは感染初期の検体の解析に遅れが生じたため。また、平成26年度に得られた成果にさらにデータを追加し、平成27年度に海外の国際学会において成果発表をおこないたいと考え、旅費の支出を控えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は変異ウイルス感染者の感染急性期もしくは感染初期の検体のみを用いる実験を計画していたが、それに加えて、感染慢性期の検体も用い、変異低蓄積エピトープにおいて変異ウイルスに対して増殖抑制能を有するCTLの存在を検証する。対象とする検体が増えるため、当該助成金を研究用消耗品などの購入のための物品費として平成27年度分として請求した助成金と合わせて使用する。
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