前年度までに、マウス脳前頭前皮質におけるケモカインCCL2およびCCL7発現増加が、メタンフェタミン精神的依存形成に重要であることを、CCL2、CCL7の受容体であるCCR1~3の選択的阻害薬を併用することで条件付け場所嗜好性試験(CPP試験)により明らかにしてきた。またそれらのケモカインの発現増加はドパミンD1受容体を介するものであることも、既に示してきた。 最終年度である本年度は、ドパミンD1およびD2受容体の選択的作動薬と阻害薬の両方を用いて、ドパミンD2ではなくD1受容体作動薬が精神的依存を形成すること、メタンフェタミン精神的依存形成をD1受容体阻害薬のみが減弱させることを確認した。また、マウス脳室内へのCCL7リコンビナントタンパク質投与によって、前頭前皮質や側坐核等にドパミン神経を投射している腹側被蓋野において、リン酸化チロシンヒドロキシラーゼの活性化を免疫染色により確認した。すなわち、CCL7がドパミン生合成を亢進させることで脳内報酬系の活性化を誘導し、精神的依存形成に関与する可能性を示唆している。 アルツハイマー病やうつ病などといった多くの中枢神経炎症性疾患に対するウコン成分クルクミンの有効性に関する報告から、メタンフェタミン精神的依存形成に及ぼすクルクミンの影響を観察し、クルクミンをメタンフェタミンと併用することで前頭前皮質におけるメタンフェタミン誘発CCL2発現増加を減弱し、またCPP試験においてメタンフェタミン精神的依存形成を抑制することを確認した。食用であることの安全性もあるため、クルクミンのこの作用については、さらなる実験を行いたいと考えている。
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