研究課題/領域番号 |
26860363
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片桐 孝和 金沢大学, 保健学系, 助教 (60621159)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 骨髄不全 / PNH形質血球 / ヒト造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
骨髄不全症例の約50%では、造血幹細胞においてPIG-A (phosphatidylinositol glycan class-A)遺伝子変異の結果生じるGPI-AP(glycosyl phosphatidylinositol-anchored protein)欠失血球(PNH型血球: Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria type cell)が検出される。これまでに約600例の骨髄不全症例を対象にして、PNH型血球の検出を実施した結果、250例(44%)で末梢血中のいずれかの血球系統でPNH型血球が陽性という結果が得られた。このPNH型血球が陽性になる血球系統のパターンは、病態が発症してから治療による寛解が得られた後も同様の経過を辿ることが証明されている(Katagiri T. et al. Stem Cells. 2013)。 平成26年度の研究では、既に同定されていたPNH型血球陽性症例に加えて、新たに1,132例の骨髄不全症例を対象にPNH型血球の有無について解析を行った。従来の解析結果では、PNH型血球陽性例の約80%が①全ての血球系統で陽性、②顆粒球と赤血球で陽性、③②+単球で陽性であったが、今年度の解析でも同様の傾向が得られた。つまり、検討症例のうち、99例(19.9%)ではPNH型血球陽性の血球系統パターンに明らかな偏りが認める症例を同定し、計画通り研究を実施できた。 さらに一段階進んで、骨髄中の各前駆細胞におけるPNH型血球の分布についても検討した。 また、PNH型血球の陽性パターンに偏りが認められた99症例のうち、骨髄採取が可能な例を対象に、骨髄細胞からCD34陽性分画を純粋化し、平成27年度へ向けて、免疫不全マウスへの骨髄内移植の準備ができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画では、骨髄不全症例におけるPNH型血球陽性例を増やすことが主たる目標であった。平成26年度は、1000症例以上の骨髄不全症例を対象としてPNH型血球の有無について検討した。その結果、陽性例の約80%では、骨髄系の顆粒球、単球、赤血球の組み合わせで陽性(顆粒球と赤血球、顆粒球と単球と赤血球)、或いは、全血球系統で陽性であったが、1系統でもPNH型血球が陽性となる例のうち、約20%がPNH型血球陽性パターンに何らかの偏りがあることを明らかにした。その結果、陽性パターンに偏りのある症例を蓄積するという研究目標を達成することができた。 また、PNH型血球陽性例の骨髄細胞を用いて、骨髄中の造血前駆細胞ごとにPNH型血球の分布について検討した。その結果、骨髄中のCMP(Common Myeloid Progenitor)、MEP(Megakaryo-Erythroid Progenitor), GMP(Granulocyte-Macrophage Progenitor) ごとにPNH血球の分布は異なっており、CMPにおいては10%未満であったのに対し、造血分化の過程でCMPから末梢方向へ一段階進んだMEPとGMPでは、末梢血中の骨髄系で認められるPNH型血球の割合と一致していた。この、骨髄系前駆細胞で最も未分化なCMPという段階において、PNH型血球の割合が低いという結果は大変驚くべき結果であり、CMP以降の分化が進む過程で選択的にPNH型血球が増殖していることが予測された。 さらに、骨髄採取が可能な例を対象に、骨髄細胞からCD34陽性分画を純粋化し、平成27年度へ向けて、免疫不全マウスへの骨髄内移植の準備ができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究計画では、研究計画通り、骨髄不全症例におけるPNH型血球陽性例を増やすことができた。また、PNH型血球陽性例の骨髄細胞を用いて、骨髄中のCMP、MEP, GMPごとにPNH血球の分布を解析した。その結果、大変興味深いことに、各段階におけるPNH型血球の割合は明らかに異なっており、造血メカニズムを解明する一助になるデータが得られた。具体的なメカニズムとしては、①CMPレベルで認められた数%のPNH型血球が、結果としてdominantになるdriver遺伝子変異が生じた、②骨髄不全症例の体内環境においては免疫学的異常が認められることから、非PNH型血球が異常免疫により選択的に淘汰されてしまう、という2つの仮説を考えている。このデータの意味を正確に解釈するために、平成27年度以降、以下の研究を実施する予定である。 ①免疫不全マウスに、PNH型血球陽性症例の骨髄から純粋化したCD34陽性細胞を得た後、これを同マウスに骨髄内移植を実施する。その結果、マウスの末梢血において、患者のPNH型血球陽性パターンと同じ系列でPNH型血球が認められるか否かをフローサイトメトリーにより確認する。同時にマウスの骨髄環境が造血における系列決定を規定している可能性を探るために、移植後マウス骨髄の免疫染色を行う。 ②PNH型血球の選択的増殖における付加的な遺伝子変異の存在を確認するため、移植前の骨髄CD34陽性細胞と、移植後の末梢血中ヒト白血球についてマイクロアレイ解析を実施し、ドライバー遺伝子変異の有無を確認する。 上記計画に基づいた研究を実施することで、PNH型血球の増殖メカニズムを明らかにし、さらにヒト正常造血における系列決定のメカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象となる症例数から逆算して所要額を算出したが、症例数が当初の予定より少なかったため、2種類の試薬を購入する必要性が生じなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額130,811円を含め、以下の研究計画を立案している。 ①免疫不全マウスに、PNH型血球陽性症例の骨髄から純粋化したCD34陽性細胞を得た後、これを同マウスに骨髄内移植を実施する。その結果、マウスの末梢血において、患者のPNH型血球陽性パターンと同じ系列でPNH型血球が認められるか否かをフローサイトメトリーにより確認する。同時にマウスの骨髄環境が造血における系列決定を規定している可能性を探るために、移植後マウス骨髄の免疫染色を行う。②PNH型血球の選択的増殖における付加的な遺伝子変異の存在を確認するため、移植前の骨髄CD34陽性細胞と、移植後の末梢血中ヒト白血球についてマイクロアレイ解析を実施し、ドライバー遺伝子変異の有無を確認する。
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