我々哺乳類は「多能性幹細胞→組織幹細胞/前駆細胞→終末分化細胞」という組織特異的な発生過程を辿って受精卵から各組織へと成熟していく。これに対してiPS細胞作製技術は、分化細胞から多能性幹細胞への初期化を可能にした。しかし、このiPS細胞樹立過程が「終末分化細胞→組織幹細胞/前駆細胞→多能性幹細胞」という発生の逆戻り経路を辿るかは明らかにされていない。そこで本研究では、iPS細胞樹立過程における組織体性幹細胞/前駆細胞ステージの通過の有無を検討した。対象組織として、汎用性の高さから毛包細胞を選択し、毛包幹細胞マーカーとしてはLgr5を選択した。Lgr5レポーターマウスを用いた解析により、毛包細胞からのiPS細胞樹立過程において、割合は非常に少ないものの、Lgr5陽性となる細胞集団の存在が認められた。しかし、これら細胞はnativeな毛包幹細胞とは性質が異なっていた。一方で、Lgr5を一過性に発現する細胞集団はその後効率よくiPS細胞へと初期化されることを見出した。Lgr5陽性細胞は毛包細胞だけではなく、マウス胎児性線維芽細胞を用いた初期化過程でも一過性に出現し、Lgr5陽性ステージを通過しなかった細胞と比較すると、Lgr5陽性ステージを通過した細胞集団は、高効率でiPS細胞へと初期化されることが明らかとなった。 最終年度ではヒト細胞を用いて同様の解析を実施し、ヒトにおいても、Lgr5陽性ステージを通過した細胞は、通過しなかった細胞と比べてその後効率よくiPS細胞へと初期化されることを見出した。以上から、Lgr5発現とiPS細胞樹立過程の関連性を示唆する結果を得ることに成功し、論文として報告した。本成果はヒトiPS細胞の高効率な樹立法開発にも寄与することが期待される。
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