研究課題/領域番号 |
26860366
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
藤原 晴美 浜松医科大学, 医学部附属病院, 臨床検査技師 (50643350)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遅発性溶血性輸血副作用 / 不規則抗体 / 全方向多施設共同研究 / 輸血 |
研究実績の概要 |
赤血球不規則抗体は、遅発性溶血性輸血副作用(Delated hemolytic transfusion reaction:DHTR)を引き起こす。このDHTRは、死に至る重篤な反応も報告されている。一方、妊娠や出産の母子間免疫により赤血球不規則抗体を産生することも分ってはいるが、通常RBC輸血後や出産後に、赤血球不規則抗体をfollow upしていない。安全な輸血療法を患者に提供する上で、不規則抗体の情報および溶血性疾患の交絡因子をより詳細に研究することは輸血療法において大きな課題となっている。現在、不規則抗体研究はretrospectiveな多施設共同研究が実施されているが、retrospectiveではDHTRの発生率の正確な把握、予知や予防法を確立することが難しい。 そこで現在、DHTRのprospectiveな多施設共同研究で発生する問題点の抽出と解決方法についてpilot研究を実施している。2015年度は計画に沿って次の研究を実施した。 1.研究要項(プロトコール)の見直し:女性は男性に比べ赤血球不規則抗体保有者が多い。原因として母子間免疫が上げられる(Takeshita A et al, 2010)。しかしこれまでの研究がretrospectiveなため、出産後に陽転化するのか、経産婦は輸血後に陽転化しやすくなり赤血球不規則抗体保有者が多くなるのかは明確ではない。不規則抗体研究の権威である本院の竹下教授より、研究デザインに母子間免疫を加え調査をするよう助言していただき、プロトコールを改定した。 2.施設の倫理委員会の承認の取得:本研究は浜松医科大学「医の倫理委員会」で承認を得た(赤血球不規則抗体が関与する溶血性疾患の解明:15-140)。 3.タブレット端末用と配布用の説明資料を作成 4.研究開始:各科長への本研究の概要とプロトコールの説明した後、研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を実施していく上で、問題点が3つ浮上した。一つ目は母子間免疫の調査についてである。前年度企画したプロトコールでは、女性は男性に比べ赤血球不規則抗体保有者が多い原因が明確にはできない。不規則抗体研究の権威である本院の竹下教授より、研究デザインに母子間免疫を加え調査をするよう助言していただき、次の研究デザインをプロトコールに追加した。① 妊婦の後期検診で赤血球不規則抗体を実施している入院患者に対し、本研究の目的と意義に関して十分に説明し、研究への同意を文書で得た上で症例登録を行う。② 産後の1ヶ月検診時に赤血球不規則抗体検査を実施する。 二つ目に問題となったことは輸血後に赤血球不規則抗体検査を実施する時期である。SHOT(2014)のデータによるとDHTRが確認できた時期は輸血後2-40日で、赤血球不規則抗体が産生される時期は定かではない。また対象患者から何度も採血するという負担を避けるため、検査は輸血後2~3ヶ月時に実施する感染症検査の残血清を用いることに決定し、プロトコールを改定した。 その後、浜松医科大学「医の倫理委員会」で承認を取得した(赤血球不規則抗体が関与する溶血性疾患の解明:15-140)。IRB取得後は対象者が研究内容を理解した上で研究参加が検討できるよう、タブレット端末用と配布用の説明資料を作成した。 三つ目に問題となったことは各科医師に対する本研究の説明である。このため、各科長に本研究の概要とプロトコール、研究の意義を説明し承認を得た後、研究を開始した。 現在これらの問題点は、全て解決している。
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今後の研究の推進方策 |
1.輸血をした登録者は今後、規定時期に輸血後の赤血球不規則抗体検査と、溶血性疾患の調査を実施する。【免疫学的因子の調査】輸血や母子間免疫、疾患や免疫抑制、移植等暴露の因子を追跡する。陽転化症例では、抗体が陽転化するまでの期間、輸血量、母子間免疫に関わるイベント、移植歴を調査する。【交絡因子の調査】調査項目は性別、疾患、年齢、輸血治療歴の有無、妊娠歴の有無とする。併せて症例数を増やしていく。 2.産後の登録者も、陰性及び陽性に分け、母子間免疫についての免疫学的因子・交絡因子の追跡調査を行う。 3.Prospectiveな研究を行うにあたり、今回のpilot研究より問題点と課題を抽出する。 4.赤血球不規則抗体の陽転化率、免疫学的因子、交絡因子について解析を行い、陽転化の原因因子を決定する。併せて、初回検査が陽性の症例は、新規抗体の産生率、陰性転化率、抗体産生に伴う交絡因子について解析をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を実施していく上で、プロトコールの改定、さらに各科長に本研究の概要と意義、プロトコールの説明が必要となった。このため研究開始が遅延し、2015年度の研究登録予定者数が減少し、試薬や検査の使用額も予定より減少したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、症例数を増やしていくため、研究費は試薬、試験管などの実験機器、外注検査費、患者への配布資料の作成費に充てる計画である。また、研究成果発表のための論文作成、新規情報収集のための学会参加にも研究費を使用する予定である。
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