研究課題/領域番号 |
26860370
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
本木 由香里 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80724054)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 抗リン脂質抗体症候群 / 動脈血栓症 / 動脈硬化 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗リン脂質抗体の出現に伴い、動脈血栓症や静脈血栓症、習慣流産などを発症する自己免疫疾患である。中でも動脈血栓症は死因となりうる重篤な疾患であるが、APS患者におけるその発症機序の詳細はまだ解明されていない。本研究では、APS患者における動脈血栓症発症機序の解明に向け、平成27年度は抗リン脂質抗体症候群と酸化ストレスの関連について検討を行った。 まず、APS患者63症例を対象に、血清中の酸化ストレス値(dROMsテスト)と抗酸化力値(BAPテスト)を測定し、健常人312名の測定値と比較した。結果、健常人に比べAPS患者では、酸化ストレス値が有意に高く、抗酸化力値は著しく低下していることが明らかとなった。 そこで、酸化ストレスがAPSの病態にどう関与するのかを検討するため、血管内皮細胞への酸化ストレス負荷実験を行った。酸化ストレス負荷は過酸化水素100μMにて実施した。その結果、酸化ストレスは血管内皮細胞の組織因子(TF)mRNA発現を促進し、eNOS-mRNA発現を抑制することを見出した。TFは血栓形成のトリガーとなる細胞表面因子であり、抗リン脂質抗体による直接的な作用によって単球表面TFの発現も亢進することから、APSでは、酸化ストレスと抗リン脂質抗体によるTF発現の増加が血栓症の発症を惹起する可能性が考えられる。また、eNOSは血管内皮細胞が持つ一酸化窒素合成酵素であり、eNOSの発現抑制はNOの産生低下を招く。NOは酸素ラジカルの不活化や、単球などの血管内皮細胞下への浸潤抑制、血管拡張作用などの抗動脈硬化性作用を有しており、NOの産生低下は動脈硬化の進展を促進する可能性がある。 今後、抗リン脂質抗体と酸化ストレスとの関連や、酸化ストレス条件下の血管内皮細胞と単核球の相互作用について検討を進めることで、APS患者における種々の病態発症機序を明らかにし、発症の予防につながる知見を得たい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、抗リン脂質抗体症候群(APS)における酸化ストレスに関する検討を中心に進めた。酸化ストレスは、当初の研究計画に組み込まれていない検討項目であったが、APS患者の血中酸化ストレス度を評価したところ、健常人に比し、著しく酸化ストレスが高い状態であることが明らかとなり、非常に興味深い結果であった。このことから、酸化ストレスがAPSの病態にどのように関与するのか検討を行うことにした。新たな検討項目であったため、基礎的検討からのスタートであったが、血管内皮細胞の酸化ストレス負荷モデルを確立し、酸化ストレスが動脈硬化や血栓症の発症に関与することを示唆する成果が得られている。次年度も本検討をより発展的に進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、血管内皮細胞と単核球について、酸化ストレスあるいは抗リン脂質抗体に対する細胞の相互作用を解析する。解析には、それぞれの単培養モデルと、両者の共培養モデルを作成し、共培養モデルとしては、血管内皮細胞と単核球が直接接触せず、細胞が産生・分泌する因子によってのみ作用可能である非接触系と、単核球が血管内皮細胞へ接着可能である接触系を用いる。 また、酸化ストレス環境下において、血管内皮細胞または単核球への抗リン脂質抗体添加実験を行い、APS患者の血管内で起こり得る細胞の反応を解析する。 さらに、抗リン脂質抗体存在下では単球等の遊走を誘導するケモカインが増加することや、酸化ストレス負荷条件下で抗動脈硬化作用を有する因子が低下することなどがこれまでの検討で明らかになったことから、APSでは、血管内皮細胞下への単球の浸潤が促進される可能性に注目し、抗リン脂質抗体添加や酸化ストレス負荷による血管内皮細胞の接着因子発現ならびに細胞間結合への影響について免疫染色やウエスタンブロッティング等を用いて解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった試薬の使用時期が予定より遅くなり、試薬の使用期限を考慮すると平成27年度中の購入は控え、次年度に購入すべきであると考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
血管内皮細胞の培養に用いる培地および成長因子の購入にあてる。
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