研究課題/領域番号 |
26860371
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八木 美佳子 九州大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (70536135)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / p32/C1qbp / 大脳白質脳症 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
細胞のエネルギー代謝の中心であるミトコンドリアはATP産生、TCAサイクル、脂肪酸酸化など多彩な機能を持ち、その機能異常はミトコンドリア病をはじめ、神経変性疾患、心筋症、糖尿病などを引き起こす。しかし、ミトコンドリア異常による疾患の詳細な分子機構、診断マーカーは現在のところ明らかではない。ミトコンドリア病患者に変異が同定されたp32/C1qbpはミトコンドリアに局在しRNAやタンパク質のシャペロンとしての機能を有することを我々は見出してきた。このp32脳神経特異的ノックアウトマウスを作製すると、その表現型より大脳白質脳症疾患モデルマウスとなりうると考えた。そこで本研究は、p32KOマウスの機能解析を通じて、大脳白質脳症発症機構の分子基盤の解明、および メタボローム解析による新規診断マーカーの探索を目的とした。研究実績は以下の通りである。 (1)病理解析より大脳白質部位に典型的な空砲形成および、脱髄を示しオリゴデンドロサイトの分化異常が発症の原因であった。さらに神経軸索の維持異常を示した。(2)p32脳神経KOマウスの脳組織では、ERストレス応答を惹起すること、mTOR系のシグナル伝達阻害、脂肪酸酸化異常、尿素回路の異常を示した。これらの機構により大脳白質脳症を呈することを明らかにした。(3)野生型マウスおよびp32脳神経KOマウスの中枢神経系大脳白質から抽出した代謝物を質量分析器による代謝物の網羅的解析を行い、クラスター解析よりp32を介した代謝物シグナリング経路を同定した。結果、p32脳神経KOマウスでは、乳酸、ケトン体である3-hydroxybutyrateの上昇、尿素回路の低下(Citrullineの低下)を明らかにした。このことは大脳白質脳症疾患モデルマウスの解析が疾病診断マーカー探索として有意義であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p32神経特異的ノックアウトマウスの脳組織の解析はほぼ終了した。大脳白質脳症の原因の一つがオリゴデンドロサイト分化異常による髄鞘形成不全であることを脳組織免疫染色より発見した。さらにその分子機序として、RNA発現をリアルタイムPCRで確認すると、ER stress response遺伝子であるATF4、CHOPなどの発現亢進を発見した。さらにミトコンドリア病マーカーFgf21、Gdf15、のRNA発現も増加していた。またタンパク質発現を確認すると、mTORシグナルのp70S6K、S6RP、4EBPなどのリン酸化発現が増加していた。髄鞘の主な構成成分である脂肪酸については、RNA発現、タンパク質発現、脳組織中の脂肪酸定量、代謝物解析より特にスフィンゴミエリンの減少、を確認し、脂肪酸合成異常であることを見出した。また、メタボローム解析を行った結果、オルニチン量は増加し、シトルリン量は減少していた。そこで尿素回路の酵素活性を測定すると、CPS1(carbamoyl phosphate synthetase1)活性には変化がなく、OTC1(ornithine transcarbamylase)活性が減少していた。このモデルマウスが尿素回路に異常をきたしていることを発見した。 以上の解析から疾病診断マーカー探索として本研究が有意義であることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
白質脳症モデルマウスである神経特異的p32ノックアウトマウスは、ミトコンドリア機能障害からER stress遺伝子発現が亢進しmTORシグナル経路を変化させ、さらにミトコンドリア病マーカー(FGF21, GDF15)の発現を増加させた。メタボローム解析より尿素回路に変化が生じ、その活性が減少することが示唆された。白質脳症の脳での異常代謝が確認できた。今後はさらに、血清におけるメタボローム解析を通じて白質脳症診断マーカーの探索を進めたい。 分子機序の解明として、マウス胎仔脳から神経細胞の初代培養の系を確立したので、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ニューロン、なとを分離する予定である。白質脳症原因究明のために、それぞれの細胞の形態、RNA発現、タンパク質発現、メタボローム解析等を行いこのp32神経特異的ノックアウトモデルマウスを用いて白質脳症の原因を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通り、脳初代培養の系を立ち上げる際の費用として物品費を使用した。しかし、その他の実験は、研究室に既に揃っている物を使用したため、物品費が予想以下であった。学会発表を行わなかったため、旅費も予定額以下であった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究室の物品をほぼ使い切った。さらにメタボローム解析も行う予定なので、経費はかなりかかることが予想される。請求額は全て使用する予定である。 現在、論文作成中である。成果を発表するために、今年は多くの学会に参加予定である。旅費も必要である。
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