B16F10腫瘍細胞をマウスに静脈投与し、肺転移モデルを作製した。前年度までにIDO1およびIDO2の阻害剤による抗腫瘍効果や肺内免疫細胞の変化を明らかにした。しかし、血中および肺臓内のトリプトファン代謝産物の動態や効果については不明であった。本年度は、血中および臓器中のトリプトファン代謝産物を一斉に解析できる測定系の確立とB16F10細胞が肺内転移する際に重要となる因子の同定を中心に実施した。また、IDO1及びIDO2遺伝子欠損マウスを用いて、抗腫瘍効果の判定を行った。 トリプトファン代謝産物は高速液体クロマトグラフィーを用いて測定し、5種類の代謝産物を一斉に測定できる測定系(血中および臓器)を確立した。今後さらに一斉測定できる成分を追加していく予定である。また測定した結果、キヌレニン経路の代謝産物であるキヌレニン、3-ヒドロキシキヌレニンは、コントロールと比較して有意に肺内で増加していた。すなわち、キヌレニン経路の代謝産物は、転移性腫瘍の増殖に深く関与していると推察された。この結果の裏付けとなるように、キヌレニン経路の代謝産物が減少するIDO1遺伝子欠損マウスでは抗腫瘍効果がみられたが、キヌレニン代謝に変化を来さないIDO2遺伝子欠損マウスでは抗腫瘍効果を認めなかった。今後は、キヌレニン経路の代謝産物が免疫細胞に及ぼす影響について明らかにしていく。また、宿主細胞の代謝産物か腫瘍由来の代謝産物が重要なのかについても今後明らかにする必要がある。
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