うつ病は適正な治療によって治癒し、早期の発見が予後改善と再発防止に有効であるが、うつ病の診断は専門医による問診が必要であり、健康診断や専門外の診療科において患者を発見するのは困難である。そこで、健康診断時や専門医でなくても診断できる客観的な診断マーカーの早期開発が望まれている。必須アミノ酸であるトリプトファンは、生体内においてタンパク質合成に利用されるだけでなく、生化学的に代謝され種々の生理活性を持つ代謝産物が生成する。生体内のトリプトファンの主な代謝経路はキヌレニン経路である。キヌレニン経路により産生する代謝産物は神経毒性を持つなど、精神・神経疾患の病態と深く関与していることが示唆されている。特にキヌレニン経路の中間代謝産物であるキヌレニン(KYN)の血中および脳脊髄液中濃度とうつ病の重症度には関連があることが明らかになっていることから、生体試料中KYNの測定は精神疾患の生化学的診断マーカーとして利用できる可能性が高い。本研究は、KYNを代謝する酵素であるキヌレニン3-モノオキシゲナーゼ(KMO)およびキヌレニンアミノトランスフェラーゼ2(KAT2)の組換え型酵素を精製し、酵素法によるKYN迅速測定法を開発することを目的とし、精神疾患、特にうつ病の血液生化学的診断マーカーとしての利用を目指して検討を行った。rKMOとrKAT2ともに、バキュロウイルス・昆虫細胞発現系により活性を保持した十分な量の酵素の精製に成功した。さらに、これらの酵素を用いて試料中KYNの酵素的測定の検討を行い、rKMOとrKAT2それぞれを用いた試料中KYNの酵素的測定法の開発に成功した。
|