研究課題
本年度は、神経障害性疼痛マウスのS1で起こる一過性細胞外ATP濃度上昇とS1でのグリア性シナプス再編(神経回路再編成に関与)との関連性について調べ、以下の点を明らかとした。1, 前年度に見出した末梢神経損傷後1-2日をピークに見られるS1での細胞外ATP濃度上昇(麻酔下)は覚醒下においても認められた。[In vivo マイクロダイアリシス及びルシフェリンルシフェラーゼ法によるS1細胞外ATP量測定]2, ATPを無処置マウスのS1に直接処置したところ、シナプス新生因子の一つであるトロンボスポンジン1(TSP1)がS1アストロサイトで増加していた。[免疫組織学的染色法]3, ATPを無処置マウスのS1に直接処置したところ、S1アストロサイトで細胞内Ca2+興奮が活発になった。4, IP3受容体2型を欠損したマウス(アストロサイトの細胞内Ca2+興奮が起こらないマウス)では慢性アロディニアは形成されなかった。以上の結果から、神経障害性疼痛マウスのS1で起こる一過性細胞外ATP濃度上昇はS1グリア性シナプス再編の引き金であること、また、実行因子はアストロサイト由来のTSP1である可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)期待していた結果を得ることができた。(2)生きたままのアストロサイトのCa2+活動を覚醒下で観察する技術を習得した。(3)無侵襲でS1にATPを局所投与できる経頭蓋骨投与法を新規に開発した。
次年度は、細胞腫特異的かつ時期特異的に目的遺伝子(P2Y1受容体、VNUT)を欠損させたマウスを使用して、ATPの放出細胞や放出経路、責任受容体の同定を目指す。また、本年度に開発した経頭蓋骨投与法を応用し、ATP誘発グリア性シナプス再編のマニピュレートによる神経障害性疼痛の治療戦略の可能性を検討する。本治療戦略にはシナプス再編と同時に行う末梢由来の知覚入力コントロールが必須であると考えている。智覚入力のコントロールには各種一次知覚神経を選択的に刺激できる装置「Neurometer」および、最近報告されたAb繊維特異的な麻酔法(Nat. Med., 2015)を活用する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
The Journal of Clinical Investigation
巻: 126(5) ページ: 1983-97
10.1172/JCI82859
http://www.med.yamanashi.ac.jp/clinical_basic/pharmaco/1-Japanese/home.html