本研究はストレス負荷によって生じる脊髄ミクログリア活性化機構を解明することを目的としている。これまでにラットに持続的な複合ストレスを負荷するCSモデル(慢性疲労症候群モデル)および繰返し寒冷ストレスを負荷するRCSモデル(線維筋痛症モデル)において、両モデルとも脊髄でミクログリアが活性化することを発見した。脊髄ミクログリアは神経損傷モデルや炎症モデルにおいて病的疼痛に関与することが明らかとなっており、神経損傷や末梢神経組織障害によって活性化することが知られている。CSモデルにおいて病的疼痛が起こる領域の皮膚や筋で形態学的にも生化学的にも炎症所見を認められなかったことから、末梢組織障害がない事が明らかとなった。細胞障害関連分子の発現はストレス初期からみられたのに対して、脊髄ミクログリアの活性化はストレス後期から起こる事が明らかとなった。さらに、CSモデルのストレス期間を一日増やすことで脊髄前角のミクログリアが活性化し、RCSモデルと同じ領域に認めた。この集積した活性型ミクログリアは後肢の抗重力筋を支配するアルファ運動ニューロンの周りを取り囲んでおり、このアルファ運動ニューロンにも細胞障害関連分子の発現を認めた。ミクログリア活性化抑制剤(ミノサイクリン)の髄腔内投与は、ストレス負荷後のミクログリア活性化を抑制し、病的疼痛も抑制した。また、一部のDRGニューロンに見られた細胞障害関連分子の発現は固有感覚性ニューロンに多く認めた。この事から、末梢神経系の固有感覚性ニューロンの異常興奮がストレス負荷によって生じ、その結果脊髄ミクログリアを活性化させている可能性が示唆された。
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