研究実績の概要 |
痛みの認知経路には,感覚的側面(痛みの場所,強さ),情動的側面(不安,恐怖,嫌悪,抑うつ)の2つがあり複合体験ともいわれている。そこで申請者は大脳辺縁系のひとつであり情動的側面に深く関与するといわれている帯状回に着目し,電気生理学的手法を用いた実験を行っている。この帯状回は,侵害受容性応答や下行性鎮痛系に関与しているだけでなく,侵害刺激によって引き起こされるストレスに対する情動応答にも関与する重要な部位である(Toda, 1992;Rainville et al., 1997;Hutchison et al., 1999;Bush et al., 2000;Bantick et al., 2002;Vogt, 2005)。申請者らはこれまでの研究で,雄ラットを使用してストレス負荷に金網拘束を用いて,1日6時間の拘束を3日間,7日間,21日間と設定し,持続的なストレス負荷が帯状回の侵害受容性応答にどのような変調をきたすのかラットの体表部に8箇所の刺激部位を決め解析してきた。その結果,尾部は対照群(金網拘束なし)と比較して,7日間拘束群で帯状回ニューロンの興奮性の応答が有意に増加すること,また帯状回ニューロン応答には侵害刺激に対して興奮性,抑制性,また変化がないものの3つのパターンがあることを認めた(第34回日本疼痛学会,熊本,2012;FEPS, Spain, 2012)。次に,これまでの痛覚研究の多くは雄ラットを用いた研究が大半を占めており,雌ラットを用いた研究が少ないことに着目した。雌ラットでは痛み刺激の種類や刺激部位,性周期判定法が研究者により異なり一定の結果が得られていない。そこでWistar系雌ラットを用いて性周期を厳密に判定した上で電気生理学的手法でストレス・痛み・性周期との相互関係を解明するために実験を計画した。現在,成熟雌ラットへ持続的拘束ストレス負荷を与えた際に,機械的侵害刺激が帯状回ニューロンの侵害受容性応答へどのような変調を及ぼすのかを電気生理学的に解析し性周期の関与を解析中である。
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