研究実績の概要 |
痛みは,生体にとって不快な感覚のひとつでありまた,危険を知らせる警告信号として重要な役割をもつ。痛みによる恐怖,苦しみ,不安などの不快な情動は強力なストレッサーとなり心的障害として有害に作用する。近年,痛みと情動に関する関心が高まっているが,性腺ステロイドホルモンの影響を受ける成熟雌ラットを用いて性周期ごとに解析した研究は少ない。そこで大脳辺縁系のなかでも情動性侵害応答に関与すると報告がある帯状回に着目し実験を行った。まず,持続的なストレス(1日6時間の拘束ストレスを3日間,7日間,21日間の3群に設定)負荷を与えた雄ラットの帯状回が,侵害刺激に対しどのような変調をきたすのか解析した。その結果,尾部刺激時は対照群(拘束ストレスなし)と比較して7日間拘束群で帯状回ニューロンの興奮性の応答が有意に増加することがわかった(第34回日本疼痛学会,熊本,2012; FEPS, Spain, 2012)。次に,雌ラットを用いて各性周期(発情前期,発情期,発情後期,休止期)ごとに同様の実験(7日間拘束)で比較した結果,発情期において興奮性の応答が増加する傾向があることがわかった(EBBS, Italy, 2015)。しかし,SD系ラットを用いた実験では,発情後期と休止期で痛覚閾値が上昇したとの報告や(Kayser et al., 1996),発情前期と発情期で痛みの評価となるLicking回数が減少したとの報告や(Aloisi et al., 1996)や,熱刺激に対し発情期と発情後期で痛覚閾値が上昇したとの報告があり(Frye et al., 1993),一定の見解が得られておらず更なる解析が必要であると考えている。
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