研究課題/領域番号 |
26860383
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
永井 潤 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 助教 (20608369)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リゾホスファチジン酸 / カンナビノイド / LC-MS/MS / 神経障害性疼痛 / 炎症性疼痛 / 2-AG / CB受容体 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者がこれまでに明らかにしてきた慢性疼痛の原因分子リゾホスファチジン酸(LPA)と同じ脂質メディエーターの中でも急性疼痛時には内在性の鎮痛機構として働くエンドカンナビノイドとの相互作用を検証することで、急性疼痛と慢性疼痛について脂質代謝機構の観点から検討する。 神経障害性疼痛の過敏応答がLPA1受容体欠損マウスでほぼ完全に抑制されるにも関わらず、炎症性疼痛過敏はLPA1受容体欠損マウスにおいて抑制されないことから、両者のメカニズムが異なることが想定される。神経障害性疼痛モデルと炎症性疼痛モデルを作成し、LC-MS/MSを用いてLPAの定量を行ったところ、神経障害性疼痛時には3-6時間後をピークにLPAは上昇したが、炎症性疼痛モデルにおいては、24時間後までLPAは上昇しなかった。次に、LC-MS/MSを用いてエンドカンナビノイドである2-AGとAEAの定量系を確立し、脊髄から2-AGを定量することに成功した。神経障害性疼痛モデルと炎症性疼痛モデルで2-AGを測定したところ、両モデルにおいて、2-AGは上昇傾向にあった。そこで、2-AGの受容体であるCB1とCB2受容体のsiRNAを用いて炎症性疼痛モデルを作成したところ、炎症性疼痛応答は増強した。このことから、内在性カンナビノイドは、CB受容体を介して、LPA産生増強を抑制している可能性が考えられる。一方、LPAの脊髄クモ膜下腔内投与は、カンナビノイド分解酵素の遺伝子を上昇する傾向にあり、その基質である2-AGが減少傾向にあった。また、エンドカンナビノイド(2-AG)の前投与は、神経障害後のLPA産生機構を抑制していた。これらの結果は、内在性カンナビノイドはLPA産生系を抑制しており、一方でLPAはカンナビノイド系を抑制している相互抑制機構の可能性を示唆される重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、慢性疼痛の原因分子リゾホスファチジン酸(LPA)と同じ脂質メディエーターの中でも急性疼痛時には内在性の鎮痛機構として作用するエンドカンナビノイドとの相互作用を検証することであるが、薬理学的解析により相互に抑制機構が存在する重要な手がかりを見出している。LPAは、カンナビノイドの分解酵素の発現上昇を誘発することを見出しており、このことはLPAによりカンナビノイド系が減弱することを示唆している。さらに、LC-MS/MSを用いて、LPAのみならず前駆体のリゾホスファチジルコリン(LPC)、エンドカンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の定量系を確立し、LPAの脊髄クモ膜下腔内投与により脊髄2-AG量は減少する傾向にあることを見出した。一方、エンドカンナビノイドがLPA産生系に対する作用については、エンドカンナビノイドの前投与によりLPA合成酵素のcPLA2とiPLA2の活性化が抑制されること、またCB受容体のsiRNAを用いたノックダウン法により炎症性疼痛の長期化が認められることから、エンドカンカビノイドはLPAや慢性疼痛を抑制していることが期待される。次年度の研究においては、このコンセプトの検証を引き続き行い、さらに治療や臨床応用を目指した研究を遂行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
リゾホスファチジン酸(LPA)とエンドカンナビノイド2-AGの相互抑制のメカニズムについて、より詳細に検討する。特にLPAは、カンナビノイドの分解酵素を遺伝子レベルで上昇していることを見出しているが、ウエスタンブロット法による蛋白質レベルでの検証や免疫染色法により脊髄やDRGでの局在などを詳細に明らかにしていく。一方、エンドカンナビノイドがLPA産生系に対する作用については、LC-MS/MSを用いて神経障害性疼痛時のLPAの産生および慢性疼痛の抑制あるいは、CB受容体のsiRNAを用いたノックダウン法により炎症性疼痛時のLPA産生の上昇についてLC-MS/MSで定量する計画で、LPAとエンドカンナビノイドの相互抑制機構を生化学のレベルで詳細に解析していく必要がある。こうした基礎研究の成果は、治療や創薬等の臨床応用を目指した研究へ展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、LC-MS/MSによる内在性カンナビノイドの定量系確立には、カラムや種々の試薬が必要であったが、他の研究者との密接な情報交換も行い、速やかに条件設定を行うことができ、最小限のカラムと試薬でその定量系の確立に成功することができた。また、マウスの購入についても、1匹のマウスから、疼痛閾値の変化の解析のみならず生化学実験にも利用することで、最小限の動物購入費でより戦略的に本実験計画を進めることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、LC-MS/MSの維持費や一般試薬を購入し、研究計画を遂行する。また、遺伝子改変動物の利用や種々の阻害剤、中和抗体および生理活性物質等を利用して、Proof of conceptの検証を遂行し、臨床を目指した応用研究に利用する。
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