本研究の目的は、前年度に引き続き、申請者がこれまでに明らかにしてきた慢性疼痛の原因分子リゾホスファチジン酸(LPA)と同じ脂質メディエーターの中でも急性疼痛時には内在性の鎮痛機構として作用するエンドカンナビノイドとの相互作用を検証することで、急性疼痛と慢性疼痛について脂質代謝機構の観点から包括的に理解することを目的としている。 今年度は、前年度に引き続きリゾホスファチジン酸(LPA)とエンドカンナビノイド系の相互抑制のメカニズムについて検討する。特にLPAは、前年度脊髄におけるカンナビノイドの分解酵素(MAGL: Monoacylglycerol lipase)が遺伝子レベルで上昇していることを見出してきたが、今年度はDRGにおいてもう一つの主要なカンナビノイド酵素であるFAAH(Fatty acid amide hydrolase)が、LPAの脊髄クモ膜下腔内投与6時間後において、1-10nmolの範囲で用量依存的に上昇することが明らかとなった。また、in vitro系において、神経細胞株であるSH-SY5yにLPA(50マイクロM)を添加(6時間後)したときに、MAGLとFAAHの両者が上昇することが明らかとなった。また、ウエスタンブロット法による蛋白質レベルの検証により、神経障害後の脊髄において、6時間後をピークに上昇していた。 一方、エンドカンナビノイドがLPA産生系に及ぼす作用については、LC-MS/MSを用いて神経障害性疼痛時のLPAの産生および慢性疼痛の抑制を検討しており、CB1およびCB2受容体のsiRNAを用いたノックダウン法により炎症性疼痛時の脊髄におけるLPA産生の上昇は現在のところ見出していないが、炎症性疼痛の長期化が見られたため、LPAとエンドカンナビノイドの相互抑制機構の存在が期待される。 以上の結果は、LPAはカンナビノイド分解酵素の発現を上昇させることによりカンナビノイド系を抑制しており、逆に内在性カンナビノイドはLPA産生系を抑制している相互抑制機構の可能性を示唆された。
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