本年度では前年度に引き続き神経障害性疼痛モデルマウス(坐骨神経部分結紮)および炎症性疼痛モデルマウス(完全フロイントアジュバント(CFA)投与)における各組織の糖脂質構成の変化について解析を行った。その結果、坐骨神経部分結紮術後6-7日、CFA投与1日後における脊髄ガングリオシドについてはいずれも明瞭な変化が認められなかった。神経障害性疼痛において疼痛異常が維持される14日後以降あるいは疼痛異常が形成されていく術後初期の時点、炎症性疼痛において慢性期の疼痛異常の分子メカニズムが今回解析した時点とは異なる可能性があるため、現在これらの解析を行っている。また、炎症惹起後1日後の時点で出現する皮膚の糖脂質については、TLCによる解析によりシアリダーゼ感受性であることが明らかとなったため、シアル酸を有することが示唆された。一方、神経障害性疼痛、炎症性疼痛いずれにおいてもガングリオシドではないタイプの糖脂質が脊髄において顕著に変化することが示唆された。この糖脂質が疼痛に関与することは現在までに知られておらず、糖脂質による疼痛制御の新たなメカニズムの存在を示唆すると考えられるため今後検証する予定である。 一方、炎症性疼痛惹起後の皮膚に対し、シアル酸分解酵素を投与したところ機械的アロディニアを抑制でき、さらにこの効果は熱により不活性化した酵素では認められなかったことから、酵素活性が重要であることが示唆された。また、用量依存性を示したことから、シアル酸の除去によりアロディニアを抑制しうることが示された。以上から、内在性のガングリオシドが疼痛異常に関与しており、その含有量を操作することが鎮痛に有効であることが示唆された。
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